南ア・ワールドカップ通信BACK NUMBER
南アに置き忘れた「ガラスの靴」。
“シンデレラ”日本代表に3つの課題。
text by
田邊雅之Masayuki Tanabe
photograph byFIFA via Getty Images
posted2010/07/09 11:30
5本、10本、15本……徐々に増えていったシュート数。
松井は試合後のミックスゾーンで「僕たちのサッカーはこうなんだというのを、みんなわかってきたと思うんです」と胸を張ったが、日本代表が進化していたことは、シュート数が5本(カメルーン戦)、10本(オランダ戦)、15本(デンマーク戦)と増えていった点にもはっきりと現れていた。
さらに感心させられたのは試合運びだった。
まずは試合開始直後の展開。日本はデンマークに攻めこまれたが、フォーメーションを4-3-3に戻すと共にマークを確認することで対応している。
次に注目したいのが、デンマークが1点を返し、攻勢に出てきた場面だ。
ここで日本代表はしっかり攻撃をしのいだだけでなく、相手が攻勢をかけてきたのを逆手にとって突き放すという芸当まで演じている。3-1というスコアもさりながら、このような試合運びが出来たことも大きな驚きだった。
パラグアイ戦でシンデレラの魔法は解けてしまった。
全般的に述べるならば、日本代表は南アで予想以上の成功を収めたと言っていい。
もちろん悔いは残る。(決して強豪とは言えない)パラグアイを破ればベスト8に進出できるというような機会に恵まれるのは、そう度々あることではない。また日本代表はサッカーのスタイルの模索という点でも、パラグアイ戦で振出しに戻ってしまった。相手のミスにも助けられて失点はゼロに抑えたが、と同時に、日本代表もめぼしいチャンスが作れなかった。
イングランド戦でかけてもらったシンデレラの魔法は解けてしまった。
この日を境に、外国人記者から質問を受ける機会がぱったり途絶えてしまったことがそれを示していた。
だからこそ……重要なのはここからなのである。
日本代表は果たしてW杯で何を得たのか。何を学ぶべきなのか。手元に残された「ガラスの靴(ベスト16進出という結果)」を無駄にしないために、さしあたって考えなければならないテーマは3つある。
「日本に適した堅守速攻とは何か?」を考える必要が。
1つ目は「堅守速攻」だ。
今回、日本代表は「堅守速攻」で活路を見出したとされている。そして「堅守速攻」が、あたかも未来への指針でもあるかのようにも報じられている。
だが「堅守速攻」というのは、実は何も言っていないに等しい。それは「コレクティブ(組織的)にプレーする」というのが、具体的な指針にならないのにも似ている。
守備を固めて速攻を狙う、チーム全体として組織的にプレーするのはいずこも同じ。
今やあのブラジルでさえもが、組織的なディフェンスをする時代だ。守備を固めて速攻を狙わず、遅攻や個の力で局面を打開しようとするチームを見つける方がむずかしい。
むしろここで重要になるのは、「日本に適した堅守速攻とは何か」というテーマを考えることだ。日本人が守備を固めて速攻を展開するためには、どのようなシステムを採用してどんな選手を選び、いかなる攻撃や守備のメカニズムを使うべきなのかよく考える必要がある(フリーキックにひたすら磨きをかけていくことが日本の明日につながると考える人は、さすがにいないだろう)。