スペインサッカー、美学と不条理BACK NUMBER
カンプノウに響いたビジャの雄叫びと、
“バルセロナのFW”という宿命。
text by
工藤拓Taku Kudo
photograph byTomoki Momozono
posted2013/03/19 10:30
2戦合計で逆転となるゴールを決めた後、ビジャはカンプノウの空に向けて吠えた。
少ない出場機会のなかで得点を積み重ねてきたが……。
だが、現実は違った。
復帰から1カ月、2カ月が経過した後も一向にプレー時間は増えない。ティト・ビラノバ監督は「ダビの回復は慎重に進めなければならない。まだ少しずつリズムを取り戻している段階だ」と繰り返すばかりで、ようやく90分間のプレーを許されたのは11月28日、コパデルレイのアラベス戦のことだ。
その後もビジャは限られた時間の中で持ち前の高い決定力を発揮し、このミラン戦前までにはメッシに次ぐチーム2位の12ゴールを積み重ねてきた。にもかかわらず、重要な試合では決まってペドロ・ロドリゲスやアレクシス・サンチェスが優先的に起用される。それは点取り屋の彼にとって受け入れ難い状況だったはずだ。
それでも沈黙を貫くスペイン代表ストライカーの苦悩を代弁するかのごとく、国内メディアは「ビジャの我慢が限界に達しようとしている」と危機感を煽りはじめた。またビジャがウォーミングアップをはじめるだけで歓声を上げるファンの数は、カンプノウのみならずアウェーのスタジアムでも増えるようになっていった。
“移籍”の手札を胸に飲み込み、大一番で真価を発揮。
そして今年1月、ついにビジャは沈黙を破る。ビラノバに対し、現状の扱いが続くようであれば移籍を検討する意思を伝えたのだ。
この時ビジャの元にはアーセナルなど他国の複数のクラブからオファーが届いていたという。ビラノバやスポーツディレクターのスビサレッタから説得を受け、また第3子の誕生が迫っていたこともあり、結局シーズン途中での移籍は見送られた。だが、この頃からビジャの心は着実にバルサから離れはじめていた。
2ゴールを追う背水の陣で臨んだミランとのセカンドレグにて、ビジャは本職のセンターFWで先発出場するチャンスを得る。
自身が相手の両センターバックを引きつけることで、メッシのプレースペースを確保する。指揮官から課せられたタスクは、言わば「潰れ役」だった。だが彼はその役割を全うするだけでなく、数少ないチャンスを生かして決定的なゴールを決め、再び大舞台で自身の価値を証明してみせたのである。