スペインサッカー、美学と不条理BACK NUMBER
カンプノウに響いたビジャの雄叫びと、
“バルセロナのFW”という宿命。
text by
工藤拓Taku Kudo
photograph byTomoki Momozono
posted2013/03/19 10:30
2戦合計で逆転となるゴールを決めた後、ビジャはカンプノウの空に向けて吠えた。
メッシありきのバルサにビジャの「未来」はあるのか?
とはいえ、この日の起用法はあくまでも緊急時に用いるオプションの1つであり、この1試合によってビジャの立場が劇的に変わるとは考えにくい。
世界最高のアタッカー、メッシが常に攻撃の中心に君臨するバルサにおいて、彼が持てる能力を存分に発揮できる機会は限られている。そしてそれが不満ならば、サミュエル・エトーやズラタン・イブラヒモビッチ、ボージャン・クルキッチらと同じく、他のチームに居場所を求めるしかない。それが現在のバルサにおける“9番(センターFW)”の悲しい宿命なのだ。
ここ数週間のチームの不振を払しょくする重要な勝利に貢献した試合後、ビジャは興奮冷めやらぬ様子で言った。
「こんな日には苦しかった日々のことを全て忘れることができる。今は未来のことしか頭にない」
しかし、ウェンブリーの歓喜に匹敵する感情をもたらしたあのゴールも、彼とバルサの関係をつなぎとめるきっかけとなるかは分からない。
彼が言う「未来」がバルサにあるのかどうか。それは本人にしか分からないことである。