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“全員で崩す”浦和を象徴する最前線。
シュート数ゼロ、興梠慎三の献身ぶり。
text by
茂野聡士Satoshi Shigeno
photograph byYUTAKA/AFLO SPORT
posted2013/03/13 12:40
今季、8年間在籍した鹿島から浦和に移籍した興梠。現在26歳、選手としても今まさに円熟期を迎えようとしている。
出場3試合、計234分間で0本。
J1リーグ開幕戦のサンフレッチェ広島戦(2日)、第2節の名古屋グランパス戦(9日)、そして12日に行われたACLグループステージ第2節、ムアントン・ユナイテッド(タイ)戦で、浦和レッズの1トップとして先発した興梠慎三のシュート本数である。
いつの時代でも“シュートを打たないFW”には当然、厳しい目が向けられることが多い。
しかし、ムアントン戦の71分のことだった。
新人FW阪野豊史と交代してピッチを去った背番号30に向けて、埼玉スタジアムに集った浦和サポーターは惜しみない拍手を送った。
それは他クラブから移籍してきた選手が認められるまで、比較的時間がかかる浦和では珍しい光景だった。
高さと強さで勝てなくても、技術と「間」で優位に立つ!
サポーターの拍手の“伏線”はムアントン戦の3日前にさかのぼる。
浦和はJリーグのホーム開幕戦、名古屋を相手に迎えた。名古屋が田中マルクス闘莉王を負傷で欠いていたとはいえ、1-0のスコア以上の内容差を見せつけたこの試合、左サイドハーフ・宇賀神友弥が決めた決勝点のお膳立てをしたのは興梠だった。
センターサークル付近の鈴木啓太から入った鋭い縦パスを、興梠は半身の姿勢を取りながら柔らかいファーストタッチで受けると同時に、躊躇なくラストパスという判断を下した。
「サイドに張っていた宇賀神が(最終ラインの裏を狙って)斜めに走っていたのは分かっていました。選択肢はそこしかないと。いいパスが出せたと思います」
興梠が“効いていた”のは、このアシストシーンだけではなかった。
この日、興梠が主にマッチアップしたのは身長186cmのブラジル人センターバック、ダニエルだった。身長差が11cmもある興梠(175cm)だったが、縦パスが入った場面でのポストプレー、そして空中戦でも互角以上に渡り合った。ダニエルには高さと強さで勝てない分、足元の技術と動き出しの「間」を使って相手をズラすことで、局地戦で優位に立ったのだ。
昨シーズンの浦和は選手陣容のバランスもあって、原口元気やポポ(今季からJ2神戸へ復帰)ら本来のポジションではない選手を1トップに使わざるを得なかった。彼らが相手を背負ってのキープに苦しんだ昨年の序盤を踏まえると、最前線の興梠は早くも大きな存在となりつつある。
そんな興梠の名古屋戦での出来は、相手指揮官ストイコビッチ監督が会見中に名指しで称賛するほどだった。