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“全員で崩す”浦和を象徴する最前線。
シュート数ゼロ、興梠慎三の献身ぶり。
text by
茂野聡士Satoshi Shigeno
photograph byYUTAKA/AFLO SPORT
posted2013/03/13 12:40
今季、8年間在籍した鹿島から浦和に移籍した興梠。現在26歳、選手としても今まさに円熟期を迎えようとしている。
興梠が見せる、秀逸なオフ・ザ・ボールでの駆け引き。
「興梠はとてもインテリジェントなプレーヤーだった……。フィジカルはそれほどでもないのに、まるでコンピューターのようにしっかりと、動くべきところ、走るべきところが分かっていた」
決勝点の起点となる縦パスを入れた鈴木もこう語る。
「慎三はトレーニング中からいい動き出しをしてくれるので、スルーパスなのか足元への強いパスがいいのかの選択ができるんです」
名古屋戦に続き、ムアントン戦でも興梠の秀逸なオフ・ザ・ボールでの駆け引きが見られた。浦和が後方でボールを回している際にはムアントンDFの背中に隠れるように、明らかなオフサイドポジションにいて気配を消しながらも、縦パスが入りそうなタイミングでは中盤と最終ラインの間でボールを受ける。相手にとっては捕まえづらいことこの上ない動きを繰り返していた。
29分、相手DFピヤポン・ブンタオが退場したことにより、浦和が圧倒的にボールを支配して最終的には4-1のワンサイドゲームとなった。
ペトロビッチ監督が語った、過去の浦和との違いとは?
その中でも、ゴールには至らなかったものの、35分に見せた攻撃は連動性あふれるものだった。
味方のクリアを拾った平川忠亮が蹴ったロングボールを、興梠がハーフラインやや右で柔らかなトラップから阿部勇樹に落とす。すると阿部の鋭い縦パスから、マルシオ・リシャルデス、関口訓充と面白いようにパスがつながり、関口のクロスを那須大亮が頭で折り返すと、柏木陽介がヘディングシュートで飛び込んだ。
柏木のフィニッシュはゴール枠の上に外れたものの、多くの選手が攻撃に絡んでいく“スイッチ”を入れたのは興梠だった。そのほかにも興梠は交代直前の69分、平川忠亮のクロスに原口元気がヘディングシュートで3点目を奪ったシーンではニアサイドに走って囮となる動きを見せていた。
興味深いのは、ミハイロ・ペトロビッチ監督(以下、ミシャ)の試合後の会見である。
「浦和というチームは過去において、1人から2人、3人の特定選手の調子で戦っている印象でした。ただ現在は特定の誰かがというよりも、いかにチーム全体がコレクティブでまとまって戦っていけるのかという部分があるのかと思います」
日本語ではこう訳されたが、ミシャ監督は1人から2人の部分を「ワシントン」、「ポンテ」と表現していた。