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<シリーズ 3.11を越えて> 小笠原満男 「子供たちの笑顔を守り続けるために」~“東北人魂”に込めた思い~
text by
佐藤俊Shun Sato
photograph byMiki Sano
posted2013/03/11 06:01
「練習したくてもサッカーする場所がないんです」
被災地のあるイベントで満男が「どうすれば、うまくなれますか」と、少年に聞かれた。
「一生懸命に練習することだよ。そうしたら絶対にうまくなるから」と答えると、少年は「練習したくてもサッカーする場所がないんです」と、寂しそうに呟いたという。満男は言葉を失った。
満男の同級生たちは、幼稚園や小学校低学年の子供を持つ親であり、自身も3人の子供の親である。子供の未来を案じるのは、当然だった。満男の同級生たちと“東北人魂”は、「元気に遊べるグラウンド」の建設へと動き出したのだ。
「やっぱり、サッカーを簡単に諦めて欲しくないし、子供たちには元気でいてほしいからね。グラウンドの候補地が二転三転して、場所が決まるまでに時間がかかったけど、ようやく大船渡市の赤崎小学校跡地に1万8000平方メートルのグラウンドが出来ることになった。防球ネットを始め、ロッカールームなどの建物も出来そうだし、サッカーだけじゃなく野球とかいろんなスポーツを楽しんでもらえればね。これは自分の考えの段階なんだけど、将来は、ここにプールや体育館が出来て、総合スポーツ施設として地域の人に利用してもらえるようになればいいかなと」
保護者からは「子供の喜ぶ顔が見れて良かった」という感想が。
満男は、「子供たちの笑顔が復興には必要なんですよ」と、強調した。
“東北人魂”のイベントは、ボールを蹴る子供たちよりも、保護者ら見学者の数が多い。大船渡高校でのミニサッカー大会に内田と吉田が来た時も、高校のグラウンドが見学者で埋まった。
「見学者が多いのはね、子供たちの喜んでいる顔が見たいからでしょう。普段は仮設住宅と学校の行き来しかなく、子供に不自由させているし、喜ばせてあげられないと思っている親が多いんです。だから、イベントでグラウンドを走り回っている姿を見るのが嬉しいんですよ。実際、『子供の喜ぶ顔が見れて良かった』という感想を聞くことが多いんです。これからも子供たちと触れ合うイベントをやっていきたい。復興を遂げられた後も続けたいですね」