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<シリーズ 3.11を越えて> 小笠原満男 「子供たちの笑顔を守り続けるために」~“東北人魂”に込めた思い~
text by
佐藤俊Shun Sato
photograph byMiki Sano
posted2013/03/11 06:01
復興支援の両立に苦しみながらも、故郷のために動き続けてきた。
寡黙な男が、活動の難しさと故郷への思いをじっくりと語ってくれた。
雑誌Numberに連載中の「シリーズ 3.11を越えて」。
東日本大震災から2年。今回はNumber824・825号より、
東北のために尽力する鹿島アントラーズ・小笠原満男の活動を追いました。
「2年って、アッという間ですよ」
小笠原満男は、そう呟いた。
「でも、あの時は、ほんと、みんな生きるか死ぬかでしたからね……」
2年前の震災直後、満男は居ても立っても居られず、水や食料を詰め込んだレンタカーで避難所を回り、生活物資を届けた。それが落ち着くと、被災してサッカーができなくなった子供たちのために、練習着やスパイクなどを集め、100箱以上の段ボールを恩師の齋藤重信先生に送った。さらに「サッカーも被災している。サッカーだけに使える基金を作りたい」と、仲間とともに東北サッカー未来募金を設立し、鹿島の試合に被災地の少年少女を招待するなど、支援活動を続けた。その姿は、まるで何かに取り憑かれたように必死だった。
その一方で、中断していたJリーグが4月23日に再開すると、満男のパフォーマンスは目に見えて落ちていった。チームも波に乗れず、13位前後を行き来するようになった。やがて、満男はスタメンから外れ、チームの紅白戦さえ出場できず、そのグラウンドの外周を一人でランニングさせられた。
「あれは堪えたね。試合に出れないのはしょうがないと思った。自分でもコンディションが上がらず、みんなに迷惑かけていることは感じていたんで。でも、紅白戦にも出れないのはね……。キツかったけど、グッと噛み締めて我慢しました」
「復興支援ばっかりやって、お前のせいでチームが負けたんだ」
震災を乗り越えてチーム全員で戦う。満男自身がチームメートの前でそう宣言しただけに、腐るわけにいかなかった。
「復興支援ばっかりやって、サッカーを疎かにしていたから負けるんだ。おまえのせいでチームが負けたっていう声がけっこう聞こえてきたんです。それがすごく悔しかった。確かに負けたのは自分の責任でもあるけど、それは決して震災のせいじゃない。でも、負けたらそう言われてしまう。勝てば、支援活動をやりながらも勝ったねと喜ばれる。その差はすごく大きいんですよ。それが自分の中で大きなモチベーションになったし、これからは誰にも何も言わせないプレーをしようと思った」
被災地で苦しむ人々を助けたいという強い衝動と、一向に上がらない自らのパフォーマンス。プロのサッカー選手としての葛藤がそこにあった。