WBC 侍ジャパンの道BACK NUMBER
“エースへの期待”が消えた23球!?
田中将大ら若き侍が直面した課題。
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byNaoya Sanuki
posted2013/03/03 12:15
大会前には「1試合抑えたら周りの見方も変わりますから、しっかり投げたいですね」と語っていた田中。侍ジャパンのエースとして早く「本来の力」を取り戻して欲しい。
最後の最後に頼りになったのはベテランの力だった。
「非常に苦しい戦いだった」
勝利監督会見。席に着いた山本監督はフーッと大きくため息をついて、逆転での白星発進をこう振り返った。
「ブラジルが本当に粘っこいゲーム運びだったので、なかなか日本のペースになれなかった。でも、よく8回に逆転してくれた。あの場面は両ベテランが期待に応えて決めてくれた。本当に頼もしいね」
最後の最後で、やっぱり頼りになったのはベテランの力だった。
それは逆に言えば、この苦戦の理由は、チームの若さが出てしまったということになるのかもしれない。
3連覇のためには田中にエースになってもらわなければ……。
今回の侍ジャパンは、イチローや松坂大輔、上原浩治、岩隈久志、川崎宗則といったベテラン、中堅選手が軸となる過去2大会とは違ってプロの国際大会の経験のない若い選手を軸にすえたチームといえる。
5回まで15のアウトの内、フライアウトが10個。井端のように逆方向にゴロを転がすのではなく、振り回してしまった打線も、もちろん若さが露呈したものだ。
そして投手陣ではエースに指名され、初戦の先発を任された田中将大だった。
田中は合宿から強化試合を通じて、ずっと本来のピッチングができないままに本大会を迎えた。それでもあえて初戦の先発に起用したのは、もちろんこれまでの日本での実績を買ってのものだったが、もう一つはやはり3連覇のためには田中にエースになってもらわなければならないという首脳陣の期待も込められたものだった。
「本来の力さえ出してくれれば……」
山本監督が何度も口にしてきた言葉だ。
だが、だ。
結局、田中はこの試合でも「本来の力」を見せられないままに終わってしまった。
初回に1死三塁から3番のレオナルド・レジナットに先制打を許すと、2回も制球が安定しないままストライクを取りにいったところを2安打され1死一、二塁のピンチを招いた。ここは併殺で無失点で切り抜けたが、3回にチームが同点に追いつくと首脳陣はその裏で交代を決断した。
たった23球。
もはや期待だけでの起用は許されない。先発として事実上“失格”の烙印を押されたに等しい交代劇だった。