WBC 侍ジャパンの道BACK NUMBER
“エースへの期待”が消えた23球!?
田中将大ら若き侍が直面した課題。
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byNaoya Sanuki
posted2013/03/03 12:15
大会前には「1試合抑えたら周りの見方も変わりますから、しっかり投げたいですね」と語っていた田中。侍ジャパンのエースとして早く「本来の力」を取り戻して欲しい。
薄氷の勝利。
苦しい試合を切り開くのは、やはり大試合を何度も経験してきたベテランの判断力とチームを引っ張る責任感だった。
2-3と1点を追う8回。先頭の内川聖一が三遊間を破ると4番・糸井嘉男が送る。1死二塁。そこでまず山本浩二監督が代打に起用したのが、37歳のベテラン井端弘和だった。
「(糸井が)送りバントだったので結構プレッシャーがかかりました。とにかくボールを引きつけて、右方向に転がそうと。内川選手と国際試合ではあっちに打たないとなかなかヒットは出ないという結論だった」
打てそうで打てない。とらえられそうなのに、安打に結びつかない。絶対的な球威や、凄い変化球の切れがある訳ではないブラジル投手陣に、気持ちばかりが先行して凡打を繰り返してきた若い侍ジャパン打線。マウンドの3番手左腕の仲尾次オスカルはチェンジアップを武器に7回には松田宣浩と坂本勇人から2三振を奪っている。
その緩いボールを警戒しながら、真っすぐに対応する。ポイントを手前に寄せて右方向だけに照準を絞ったベテランの判断が、同点打を生んだ。
「あそこは慎之助しかないやろ」
狙い通りに打球が一、二塁間を破って内川が同点のホームに還ってくる。そして長野久義の内野安打、鳥谷敬の四球で作った満塁の好機。
「あそこは慎之助しかないやろ」
山本監督が満を持して送り出したのが、右ひざの違和感を訴えてこの日の先発を外れたキャプテンの阿部慎之助だった。
「打てる球は全部いこうと思った。最高の場面で監督が使ってくれたし、みんなが打たせてくれた当たりだった」
鋭いライナーが二塁に飛ぶ。フェリペ・ブリンのグラブを弾き飛ばして打球が転がる。すぐに拾い上げたブリンが二塁で鳥谷を封殺すると、一塁での併殺を狙う動きを見せた。
先発を外れた悔しさもある。キャプテンとしての意地と責任感もある。必死に走った。痛い右ひざも忘れていた。間一髪で一塁を走り抜けたとき、井端が勝ち越しのホームを駆け抜けていた。