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プロ7年目の洗練が落とし穴――。
田中将大はWBC球になぜ苦しむ?
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byGetty Images
posted2013/02/28 11:25
豪州戦の試合前は「無失点で抑えたい」と語っていた田中。「回が進むにつれて自分なりの手応えも感じたが……」と試合後のコメントも歯切れが悪く。
田中に限って――。
侍ジャパンのエース候補、田中将大(楽天)が、強化・壮行試合で2試合続けて「らしくない」投球を見せた。
17日の広島戦では2回で2失点し、23日のオーストラリア戦でも3回で2失点した。
滑りやすいと言われるWBC使用球の対応に苦慮していると伝えられているが、にわかには信じがたい。
というのも田中の凄さは、投げるボール以上に、対応力の高さにあったからだ。
その力は高校時代から傑出していた。駒大苫小牧のエースだった田中は、2年夏は全国優勝、3年夏は全国準優勝に導いている。実は、いずれの大会も開幕直前、現地入りしてから胃腸炎にかかり、体調は決して万全ではなかった。
3年夏は特にひどく、初戦まではヨレヨレだった。しかも、その夏は投球フォームを崩しており、とてもではないが勝ち上がれないと思っていた。
それでも決勝で対戦した早実の監督、和泉実が「勝負どころになると、いいところにくる」と舌を巻いたように、悪い中なりにゲームをつくった。
調子が良い時も悪い時も全てを利用して“勝つ”投手が田中のはず!?
楽天入団後、捕手の嶋基宏もこう評していた。
「あいつは、試合ごと、イニングごと、修正できる。3回ぐらいになったら、あれ、またフォーム変わったな、とか。勝てるピッチャーはみんなそうですよね。ダメなピッチャーは、ダメな日はさっぱりですから」
味方の攻撃がツーアウトになると、田中はベンチ前でキャッチボールしながら、足の上げ方や体重移動などを簡単に調整してしまうのだ。
西武の栗山巧も、田中のクレバーさについてこう語っていたものだ。
「田中投手の真っ直ぐは全部、たれる(ベース手前でお辞儀をする)。プロの投手のストレートは手元でピュッと伸びる方が多いので、逆に打ちづらい。でも彼は、それを知っていて、意識的に使ってくるんですよ。あと、本人はボールってわかっていても、『ストライクちゃうん?』っていう顔をして、駆け引きをしてくることがある」
田中は「たれるストレート」だけでなく、場合によっては、シュート回転したり、スライド回転してしまう真っ直ぐも、修正しきれない場合は、逆に利用していた。