フットボール“新語録”BACK NUMBER
風間フロンターレ“最強の助っ人”。
独自理論の天才トレーナー西本直。
text by
木崎伸也Shinya Kizaki
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2013/02/08 10:30
今季の新加入選手の入団発表に臨む、川崎フロンターレの風間八宏監督。後ろの横断幕には選手たちの名前とともに、新トレーニングコーチの「西本さん」の名前も。
「操体法」をもとに独自に体系化した“西本理論”とは。
西本の理論の原点は、「操体法」にある。
「操体法」は仙台の医師・橋本敬三が民間療法の整体術に感銘を受け、西洋医学と東洋医学の両方の視点から発展させた治療体系だ。西本はサラリーマン時代に「操体法」に出会ってその理論にのめり込み、30代のときに仕事を辞めてこの道に飛び込んだ。
それ以降、ウェイトトレーニングの手法なども貪欲に吸収し、独自の理論体系を完成させる。そのエッセンスは西本の著書『朝3分の寝たまま操体法』に紹介されている。2004年の発売以来、売れ続けて現在7刷になっており、整体関連の本では異例のロングセラーになっている。
では、具体的に“西本理論”とは、どんなものなのか?
西本はピンと背筋を伸ばしたまま言った。
「人間はもともと4本の足で歩く動物でしたよね。4本の足を支えている軸は、肩甲骨と股関節。そこに背骨があって、背骨を介して4本の足がうまく動いているのが人間の仕組みです。2本足で立ったら別々に独立しているみたいに感じるかもしれませんが、連動を無視して体を使おうとするから歪みが起きて、故障が生じる。無駄な動きをするから、疲れが生じる。その連動、つなぎ方を教えるのが僕の役目です」
あらゆる動作の大本は、肩甲骨と股関節の連動にあり。
肩甲骨と股関節の連動――。最重要ポイントが、ここにあると言っていい。
その一例として、頭上から吊るされたバーを、座った状態で背中側に引き下ろす器具(ハイプーリー)を考えよう。通常のウェイトトレーニングでは、広背筋(背中の筋肉)という特定の部位を鍛えることに用いられる。
しかし、西本の考え方はまったく異なる。
「肩甲骨というのは、2つの直角三角形が向かい合ったような形になっている。2枚の羽のような感じです。それを動かすには、背骨が丸まっていたら、2つが寄ってこられないわけですよ。背骨がちゃんとそのスペースを作らないといけない。そのためには背骨を前に曲げようとして、骨盤(股関節)が動かないといけない。これが連動です」
西本のハイプーリーの実演は、とても人間業とは思えない。胸が前に大きく湾曲し、そこに肩甲骨がぐっと入って行く。今、フロンターレの選手たちは、重りを引きながら、肩甲骨を押し込む作業に取り組んでいる。これをやることで可動域が広がり、それがすべての動きにプラスに働く。