フットボール“新語録”BACK NUMBER
風間フロンターレ“最強の助っ人”。
独自理論の天才トレーナー西本直。
text by
木崎伸也Shinya Kizaki
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2013/02/08 10:30
今季の新加入選手の入団発表に臨む、川崎フロンターレの風間八宏監督。後ろの横断幕には選手たちの名前とともに、新トレーニングコーチの「西本さん」の名前も。
「筋肉の仕事は骨を動かすことなんだ、というのが根本」
「筋肉の仕事は骨を動かすことなんだ、というのが根本なんですよ。大きいとか小さいとか、強いとか弱いじゃない。みんな筋トレというと、筋肉ありきと思っているじゃないですか。重たいものを持てる人がえらい、回数を多くできる人がえらいというところがある。それは違う。ペンを持っているときに、鉄の棒を持っているときのような力を入れてはいけませんよね。その動きに必要な筋肉の動きをできなかったら、意味がない。筋肉の仕事とはなんぞや、技術とはなんぞや、ということですね。僕にとって技術とは、『自らの企図した筋肉の行動を反復、継続して行なうことのできる能力』のことです」
もちろん、特定の部位をまったく鍛えないというわけではない。バーベルをスクワットで上に押し上げる器具では、あえて上げる方向(背もたれの角度)を斜め後ろに倒して、体全体を使ってバーベルを上げながら、足の付け根の部位を鍛えることを意識する。
「通常のスクワットはつま先よりヒザが出ないように行なうため、ヒザの上の筋肉が鍛えられます。だが、ここに無駄な筋肉がつくと、力が入ったときに靭帯を引っ張ってしまい、上体が起きてシュートがとんでもない方向に飛んで行く原因になる。動物の足を見てください。馬の足は根元に行くほど太いですよね? 人間も同じ。そういう鍛え方をすると、ムチのように足をしならせてシュートできるようになります」
西本のトレーニングを行なっていけば、シュートの決定力が上がることも期待できるのだ。
人体の調整能力を生かす治療法で森谷の回復を即回復。
こうやって体のことを知り尽くせば、当然、ケガの回復にも応用できる。
「操体法」には、痛みを感じるのと逆方向に曲げると、曲がりづらかった関節が曲がるようになるという治療法がある(たとえば寝違えて首が左に曲がらなくなったときは、心地よいと感じる程度に右に曲げる。そのとき左側の筋肉も使われるため、症状が改善する)。それを応用しながら、西本はさらに筋肉全体のつながりを考え、筋肉1本1本に刺激を与えて体が動くように導く。
その治療は、次のようなものだ。
まず選手を仰向けに寝させ、その足下にヒザをついて座り、足首、ヒザ、腰などの関節にいろんな方向から負荷を与え、選手に反対の力を加えるように指示する。続いてうつ伏せの状態。互いに全力で行なうため、まるで腕相撲を全身の個別の部位でやるような感じだ。
「高木(琢也)を試合に出られる状態にするためにこれをやったとき、汗で足が滑って僕の胸にドーンと当たったんですよね。そうしたら肋骨が折れていた。それくらい真剣勝負なんです。1日に何人もできるわけではない」
今回、森谷がすぐに復帰できたのも、この手技を施したからだ。マッサージでも、ストレッチでもない。人体の調整能力を最大限に生かした治療法だ。