フットボール“新語録”BACK NUMBER
風間フロンターレ“最強の助っ人”。
独自理論の天才トレーナー西本直。
text by
木崎伸也Shinya Kizaki
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2013/02/08 10:30
今季の新加入選手の入団発表に臨む、川崎フロンターレの風間八宏監督。後ろの横断幕には選手たちの名前とともに、新トレーニングコーチの「西本さん」の名前も。
「筋肉の仕事は骨を動かすことなんだ、というのが根本なんですよ」
西本直(川崎フロンターレ・トレーニングコーチ)
実に不思議なことが起こった。
つい24時間前まで痛みでヒザが曲がらなかった選手が、翌日の練習試合にボランチで先発し、ピッチの上で誰よりも躍動していたのだ。
川崎フロンターレの宮崎1次キャンプ――。
3日目のミニゲームで、横浜F・マリノスから加入した森谷賢太郎が接触プレーでヒザを痛めてしまった。一晩寝て朝起きると、ヒザが曲がらなかったという。走ることができず、練習は別メニューになった。
ところが、その翌日、森谷は日章学園高校との練習試合に、何事もなかったかのように先発したのである。スピード溢れる動きと確かな技術で誰よりもボールを受け、攻撃をスピードアップさせる潤滑油になっていた。
いったいなぜ、森谷はたった1日で試合に出られる状態にまで回復したのだろう?
答えは、極めてシンプルだ。
新トレーニングコーチの西本直(すなお)が、独自の治療を行なったからである。
元広島カープの佐々岡投手を復活させた“人体のプロ”。
今季、西本は広島で営んでいた治療院をたたんで、フロンターレにやってきた。かつてサンフレッチェ広島で風間八宏、高木琢也、森保一らの治療と強化を担当して、1994年の第1ステージ優勝を支えた“人体のプロ”だ。
野球界では三菱重工広島の全国準優勝に貢献し、個人トレーナーとして元広島カープ投手の佐々岡真司の復活にも寄与した(30歳を越えて不振にあえいでいた佐々岡は、噂を聞きつけて西本に相談。西本は「打者からいかに球を見えなくし、いかにぎりぎりまで球を持っていられるかが重要」と考え、独自のピッチングフォームを指示。佐々岡は見事復活してその年に15勝をあげ、ノーヒットノーランも達成した)。
だが、西本の理論はあまりにも独特で、これまでいくら業界紙で発表しても認められてこなかったため、本人としてはもう大舞台に挑む気はなかった。だが、風間監督は現役時代にそのすごさを体感しており(西本の手にかかると、たとえ歩けない状態でも、90分間だけ動けるようになった)、何が何でもフロンターレにつれてきたいと考えていた。
風間は「世に出ないのは、あまりにももったいない。もう1度勝負しろ」と口説き、その情熱が西本を突き動かした。