プレミアリーグの時間BACK NUMBER
アーセナル8季連続の無冠濃厚……。
それでもベンゲル退任が無い理由。
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph byGetty Images
posted2013/01/14 08:01
年明け1月1日アウェイでのサウサンプトン戦に臨むベンゲル監督。この試合に引き分け、12月からの4連勝がストップした。
タイトルに縁のないシーズンが続くアーセナルで強まる、アーセン・ベンゲルの限界説。
クラブに心血と金銭を注ぐサポーターの間で、燻っていた不満が表面化し始めただけではなく、中立的立場のメディアまでもが、ベテラン監督を「現実が見えていない」などと叩く機会が増えている。
去る12月のリーグカップ戦で4部のチームに敗れると、『タイムズ』紙は、過去の栄光にしがみついているだけ」と、アーセナル在籍17年目となる指揮官を非難した。「リーグカップ優勝よりもCL出場権獲得の方が重い」というベンゲルの口癖も、各紙で「身勝手な幻想」として否定されるようになった。
もっとも、メディアの論調は手の平を返すように変わる。
リーグカップ敗退で、8年連続無冠が濃厚と言われる今季のアーセナルにしても、3試合連続無失点でスタートしたリーグ序盤戦では、その堅守が讃えられていた。かくいう筆者も、後方の変化がもたらす優勝争いの可能性を説いた口だ。
ところが、シーズン折り返し地点を迎える頃には、得点もするが失点もする、従来の姿に戻ってしまった。年末のニューカッスル戦(7-3)で、3度もリードを帳消しにされた乱打戦が、その好例だ。 結果的にアーセナルは、首位に16ポイントも引き離されたリーグ5位で年を越した。
実績を考えればファンも経営陣も文句は言えない!?
堅守説になびいた反省からというわけではないが、それでも考えれば考えるほど、巷のベンゲル退任要求はナンセンスに思えてならない。
まず、アーセナルでの過去は、仮に本人が「すがっている」のだとしても、周囲は全く文句を言えないレベルにある。
ベンゲルの功績は、就任後初のフルシーズンに達成した1998年の二冠と、2004年の無敗優勝というハイライトを含む、合わせて7度のリーグ優勝とFAカップ優勝だけではない。ベンゲルの就任がなければ、選手の栄養管理や最新鋭の練習施設の開設において、アーセナルがプレミアで先駆者的な立場となることはなかっただろう。欧州大陸からのトレンド到来を待つまでもなく確立された、ショートパス主体の攻撃サッカーは、タイトル獲得の有無にかかわらず、クラブ関係者とファンが胸を張れるプライドの源だ。