プレミアリーグの時間BACK NUMBER
アーセナル8季連続の無冠濃厚……。
それでもベンゲル退任が無い理由。
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph byGetty Images
posted2013/01/14 08:01
年明け1月1日アウェイでのサウサンプトン戦に臨むベンゲル監督。この試合に引き分け、12月からの4連勝がストップした。
確かに無冠ではあるが、毎年好成績なのは間違いない。
「無冠」の一言で片付けられる過去7年間にも、カップ戦では3度の決勝進出を実現している。うち1つは、バルセロナに1対2で敗れた'06年CL決勝だ。ベンゲル自身が「トロフィー」と呼ぶCL出場権の獲得は、'98年のリーグ優勝から15年連続。加えて、決勝トーナメント進出は今季で10シーズン連続となっている。
これだけの実績を、資金面でクラブに無理を強いることなく重ねてきたのだから、経営陣にとっては神様のような監督だ。ホームゲームで6万人からのチケット収入を可能にする、エミレーツ・スタジアムへの移転も、建設費用の返済による補強予算の圧迫に理解を示す指揮官がいたからこそ、スムーズに実現された。ベンゲルは、ほぼ毎年のように移籍市場でクラブに収益までもたらしている。
この補強スタンスは、数年前からファンやメディアに疑問視されていた。
セスク・ファブレガス、ロビン・ファンペルシと続いた過去2年間の主力放出で、その視線は、非難の眼差しに変わったとも言える。だが、満たされないタイトル獲得欲に耐えかねて、それぞれ、バルセロナとマンチェスター・Uに去った両名にしても、若手として呼び寄せたのはベンゲルであり、プロ選手としての育ての親に当たる指揮官の存在がなければ、少なくとも、もう1年ずつ早くアーセナルを見限っていたと思われる。
ベンゲルの衰えを指摘する声もあるが……。
若手に対する鑑定眼と並んで「秀逸」とされた掘り出し物を見極める眼力が、ベンゲルは衰えたという意見もある。たしかに、近年のベンゲルには、イングランドでは無名に近いフランス人選手が、世界的に有名なプレミアのスター選手となった、パトリック・ビエラ、エマニュエル・プティ、ティエリ・アンリのような、目利きならではの新戦力獲得がない。
とはいえ、その理由を監督1人に求めるのは如何なものか。
ベンゲルが最も精通している母国フランスのタレント市場は、彼らが獲得された'90年代後半ほど潤ってはいない。フランス代表が、'98年W杯とEURO2000を制する最盛期に到達しかけていた当時とは、マーケット事情が違うのだ。かといって、指揮官が諦めているはずもなく、アーセナルの敏腕チーフスカウトは、ドイツをはじめ、他のマーケットへの出張を繰り返している。