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広島、悲願のJ初優勝ドキュメント。
ビッグアーチを揺らした躍動の90分。
text by
細江克弥Katsuya Hosoe
photograph byAkihiro Sugimoto/AFLO SPORT
posted2012/11/26 16:30
Jリーグ発足時の10クラブの中で唯一、3大タイトルに縁がなかったサンフレッチェ広島。1994年のファーストステージ優勝の際の主力選手だった森保一が、監督としてチームに初の年間王者の栄誉をもたらした。
スタジアムが歓喜に沸く中で、「新潟、先制」の一報。
試合後、青山の表情は充実感に満ちていた。
「ずっと相手のことばかり考えて苦しんでいました。でも、本当は自分たちのメンタルの部分に問題があった。浦和戦でそのことに気付かされました。今日は、自分がやれることのすべてを出せたと思います」
さらにこの頃、スタジアムが歓喜に沸く中で「新潟、先制」の一報が入る。もちろんピッチ内で、仙台がリードを許したことを知る選手は一人もいなかったが、ビッグアーチに詰めかけた3万人の期待はにわかに膨らんでいった。
そして40分、この試合の行方を決定づける笛が吹かれる。
左サイドのタッチライン際、トップスピードで走り出した清水が、高萩のスルーパスを受けて相手DFラインの背後を突く。わずか1タッチでペナルティエリア内に侵入すると、後方から追ってきた山口に倒されてPKを獲得。これを寿人が確実に決めて3-0とした。
C大阪にとって、唯一運動量で広島に脅威を与えていた山口の退場は、あまりにも痛かった。しかし、おそらくこのプレーで提示されたカードが赤でも黄色でも、大勢に影響はなかっただろう。寿人が決めた今季22点目のゴールは、そう断言できるほど広島の勝利を決定的とする追加点だった。
「間違いなく、今年一番の出来でした。前半は飛ばし過ぎだと感じたくらいです」
寿人がそう振り返る前半は、立ち上がりの5分間を除けば完璧だった。
「飛び跳ねて喜びたいくらいだったけど、それもできないくらい……」
後半も、広島はペースを乱すことなくゴールに迫った。50分にはまたしても高萩のスルーパスで背後に抜けた石川が強烈なシュートで追加点。61分に失点を喫したものの、それに動じることも守勢に回ることもなく、むしろ相手ゴールに迫り続けることでリズムを保つ。そしてロスタイムの4分が経過し、試合終了のホイッスルが吹かれる。
チームのムードメーカーであり、ディフェンスリーダーの一人として奮闘した森脇良太が振り返る。
「試合が終わって、ベンチの状況を見て、それで優勝したんだと分かりました。やっぱり、サポーターの皆さんの前に立ったら、こみ上げて来るものがありましたね。いろんな思いが駆け巡りました」
試合終了から約10秒後、「仙台敗れる」の一報と同時に、ベンチから選手やスタッフが飛び出した。その様子を見て優勝の瞬間を知ったピッチ内の選手たちは、抱き合い、泣き崩れ、そこら中を走り回って喜びを爆発させた。
寿人は両手で顔を覆い、それから頭を抱えてピッチに崩れた。
「優勝したら飛び跳ねて喜びたいくらいだったけど、それもできないくらい……もう、座り込むのがやっとでしたね。前節の浦和戦で負けて、首位の座を守ろうとしたら勝ち取れないということが分かりました。それを選手たちの間でしっかり確認できていたので、立ち上がりから気持ちを出すことができたんだと思います」