Jリーグ万歳!BACK NUMBER
広島、悲願のJ初優勝ドキュメント。
ビッグアーチを揺らした躍動の90分。
text by
細江克弥Katsuya Hosoe
photograph byAkihiro Sugimoto/AFLO SPORT
posted2012/11/26 16:30
Jリーグ発足時の10クラブの中で唯一、3大タイトルに縁がなかったサンフレッチェ広島。1994年のファーストステージ優勝の際の主力選手だった森保一が、監督としてチームに初の年間王者の栄誉をもたらした。
大きく外れたシュートが、選手たちの足を地につけた。
「後ろからの攻撃参加がカギになると思っていたので、思い切って打ちました。まあ、全然、枠には飛ばなかったんですけど(笑)」
DF水本裕貴がセンターサークル付近から放った強烈なシュートは、大きく枠を越えてゴール裏のスポンサーボードに直撃した。しかしこのシュートによって生まれた“間”が、やや浮き足立っていた選手たちの足を地につけた。
そこからの展開は、まさに一方的だった。
広島のサッカーは、縦方向に相手を揺さぶり始めるとその迫力を増す。3バックシステムの生命線は両サイドMFの活動量にあるが、サイドへの展開を匂わせて縦パスを通し、相手を“食い付かせる”ことで両サイドにスペースが生まれる。一度この流れにハメてしまえば、サイドを警戒させて縦、縦パスに食い付かせてサイドと自由自在。じわじわと相手の最終ラインを下げさせることで、今度は中盤に生まれたスペースを使って小気味いいパスワークを見せる。
清水、石川、青山が猛然と長い距離を走ったことで生まれた追加点。
水本のシュートをきっかけにそうした流れを作りつつあった17分、先制点を演出したのはやはり一本の縦パスだった。
最終ラインでボールを受けた森崎和幸が鋭い球足の縦パスを通すと、クサビに入った佐藤寿人が丁寧なファーストタッチで高萩洋次郎に落とす。トップスピードで前を向いた高萩は、2タッチ目で森崎浩にスルーパス。ボールはDFの足に当たってこぼれたが、素早く反応した高萩の左足から放たれたシュートがゴール右隅に突き刺さった。
「とにかく先制ゴールが欲しかったので、思い切って。こういう大事な試合で点が取れて、本当にうれしかったですね」
このゴールで、チームはプレッシャーから開放された。
直後の20分、センターサークル内で高萩がパスを受けた瞬間、佐藤寿人は斜め左方向に走り出した。トラップで反転した高萩は、顔を上げると同時に前線にロングフィード。トップスピードで走る寿人はこのパスを見事にコントロールし、サポートに駆け上がった清水航平にボールを託した。
ファーサイドまで流れた清水のクロスをダイビングヘッドで折り返したのは、出場停止のミキッチに代わってスタメン出場を果たした石川大徳だった。この折り返しに合わせたのは、高萩のロングフィードの際にまだセンターサークル内にいたはずの青山敏弘だった。高萩のパス、あるいは寿人の動き出しを合図に、清水、石川、青山が猛然と長い距離を走ったことで生まれた見事なゴールだった。