オリンピックへの道BACK NUMBER
「金1」惨敗からリスタートの柔道。
再建のために“オープン”な検証を!
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byAFLO
posted2012/11/19 10:30
初仕事となる講道館杯の視察に訪れた井上康生新監督(手前)と重量級のコーチに就任した鈴木桂治氏(奥)。「気になった選手やこれから期待したい選手はたくさんいる」と大会を振り返った。
日本の「一本を獲る柔道」は間違いではないが……。
ではなぜ、金メダルが獲れなかったのか。
日本は、「一本を獲る柔道」を掲げてきた。それを問題とする指摘もあったが、決して間違っているとは言えない。仮に欧州などのスタイルを模倣しようとしても遅れを取るだけだし、両方のいいところを取ろうとすれば、かえって迷いが生じることになる。「自分はこうして戦う」とはっきり割り切れた方が大舞台では強くあれる。
問題は、一本を獲る柔道を掲げながら、どのように勝つのか、細部が詰められていなかったことにあったのではないか。
ロンドンでは、こんな言葉を聞いた。
「対策を徹底されてきた」
「研究されていた」
それは当然、そうだろう。
ただ、対策を練ってくるであろうことをどれだけ想定していたのか。前シーズンまでと比較してオリンピックで顕著だったのは組ませないまま技を掛けてくる海外の選手たちの姿勢だったが、そうした相手に勝つための策は講じられていたか――ロンドンへ向けての準備を省みることは、今後のために重要なはずだ。
最大の問題点は全日本柔道連盟の方向性が見えないこと。
また、強化の過程もあらためて考えられるべきではないか。これは特に男子が顕著だと思うが、ひんぱんに代表合宿を組み、スパルタと言ってもいいようなハードな練習を強いた。しかも、万全な体調ではない中でも参加を要求したことで、いたずらに消耗していった選手もいたという。勘繰れば、一本を獲るためにはどうすればいいのかという方法論の欠如が、気合い、猛練習という方向へ進んでしまったのかもしれない。
このように検証すべきポイントは数多くある。
ただ問題なのは、今回のスタートにあたって、ロンドン五輪までの4年間を全日本柔道連盟がどう捉えているのか、どういう反省があったのかが、公にはされておらず、定かではないことだ。
本当は検証の結果をオープンにしてスタートできればよかった。
そう思うのは、オープンにすればロンドン五輪を戦った選手、所属先の指導者、これからリオデジャネイロ五輪へ向かおうとする選手に広く伝わることになるからだ。実は選手ですら、どう進もうとしているのか見えていない、そんな現状があるように感じられるのも危惧するところだ。