フットボール“新語録”BACK NUMBER
フランクフルトを救った弱小メーカー。
ブンデスで躍進する「JAKO」の正体。
text by
木崎伸也Shinya Kizaki
photograph byItaru Chiba
posted2012/11/17 08:00
スポーツメーカー「JAKO」のユニフォームを着てピッチに向かうフランクフルトの乾貴士。JAKOはブンデスリーガ以外にも、ベルギーやオーストリアなど様々な国のチームと契約を結んでいる。ナショナルチームでは、ヨルダン、ルクセンブルク、モルドバが使用。
「フランクフルトがどん底にいたとき、JAKOは手を差し伸べてくれた。他の会社が年間10万ユーロ多く払ったとしても、私たちはパートナーを変えない」
ヘリベルト・ブルフハーゲン(アイントラハト・フランクフルト会長)
ブンデスリーガを取材していて、ずっと不思議に思っていたことがある。『JAKO』(ヤコ)というスポーツメーカーの存在だ。
初めてJAKOの名前を意識したのは、2006年夏、高原直泰がハンブルガーSVからアイントラハト・フランクフルトに移籍したとき。フランクフルトにユニフォームやトレーニングウェアを提供していたのがJAKOだった。
その1年後、稲本潤一もフランクフルトに加入すると、プレミアリーグを渡り歩いて来たMFはこんなことを言っていた。
「最近のトレーニングウェアって、発汗性が良くて、メッシュみたいな裏地がついていて肌にくっつかないようになってるでしょ。でも、フランクフルトに来て驚いたのは、練習着が普通のTシャツだったことなんよね」
確かに練習をよく見ると、普段着と変わらないコットン素材らしきTシャツでトレーニングしている。
また、地元記者からは「フランクフルトのような下位のチームだと、アディダス、プーマ、ナイキといったトップメーカーは契約してくれない」と聞かされた。そういう先入観から「旧東ドイツのメーカーなのかなぁ」と勝手に思い込んでいた。
JAKOは、ドイツ南西部生まれの“ベンチャー企業”。
だが今、そのJAKOがブンデスリーガで大躍進しているのである。今季のブンデスリーガで同社と契約しているのは、フランクフルト、ハノーファー、アウクスブルク、グロイター・フュルトの4クラブ。11節終了時点でフランクフルトは3位、ハノーファーは6位と上位に食い込んでいる。
11節のシュツットガルト対ハノーファー戦の試合後、古くから知る通信員の方と「なんか最近JAKOを良く見ますね」という話をしていた。すると、その翌日、その方からあらためて連絡があった。11月12日発売のキッカー誌でJAKOが特集されている、と。ドイツでも、いったいこのメーカーは何者なのかと話題になっているのだ。
記事を読むと、JAKOは旧東ドイツのメーカーでも何でもなかった。1989年に南西部のシュタッテンハウゼンという小さな街で、ドイツ2部の元選手、ルディ・シュプリューゲルが立ち上げた“ベンチャー企業”だった。シュプリューゲルは10年間、あるスポーツ用品会社の営業マンとして働いていたが、脱サラして起業。JagstとKocherという川にはさまれた立地だったことから、この2つの名前を組み合わせて社名とした。