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カンテラ出身選手を冷遇するレアル。
“育成”と“勝利”は相反する要素か? 

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横井伸幸

横井伸幸Nobuyuki Yokoi

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posted2012/11/16 10:30

カンテラ出身選手を冷遇するレアル。“育成”と“勝利”は相反する要素か?<Number Web> photograph by Getty Images

会長ペレス(左)の方針により、レアルのカンテラはトップチームに戦力を供給できずにいる。

 今シーズン開幕前のリーガ全体の補強費は前年と比べて65%も減った。

 イングランド、スペイン、イタリア、ドイツ、フランス、ロシアを対象とするリーグ単位の補強費調査で、スペインは過去5年間3位の座を守ってきたが、今年は6カ国中唯一2億ユーロ(約200億円)を越えず、最下位となった。

 かように不況の風が吹き荒ぶ今季、どのクラブの関係者もカンテラの重要性を口にする。開花済みの選手を買い求めることができないなら、自分たちで育てるしかない、というわけだ。

 もっとも選手育成にもお金はかかるし(以前デポルティーボのレンドイロ会長は「我々は富めるクラブではないので選手を他所から買い集める」と言っていた)、なにより時間を要するので、運営に長けたクラブでないと優れたカンテラは持ち得ない。

カンテラ出身の“本職”に代役を任せず、苦戦が続いた。

 そんなクラブのひとつであるマドリーで、10月中旬、不慮の事態が勃発した。

 左サイドバックのコエントランとマルセロと、右サイドバックのアルベロアが、代表の試合・練習で次々に負傷したのだ。しかも全員、復帰まで数週間から数カ月かかる始末。

 モウリーニョはこれを受け、ずっとセンターバックで使ってきたセルヒオ・ラモスを右サイドバックに戻した。

 左についてはカンテラ出身のナチョあるいはカサードの起用が予想され、期待された。特にナチョは世代別代表歴が長く、今季はずっとトップチームで練習している。

 ところが蓋を開けると、モウリーニョが左サイドに置いたのは本来中盤でプレイするエッシェン。アルベロアが復帰した後は、彼に任せた。

 この急造ディフェンスラインでマドリーはリーガでの格下との対戦を乗り越えたが、CLではドルトムントに物の見事に“弱点”を突かれ、2連戦を1敗1分けにしかできなかった。

浮き彫りになったマドリーのカンテラ政策の問題点。

 そして前節、コエントランがようやく戻り、ラインアップに関する議論にはいったん幕が引かれたが、マドリーの現在のカンテラ政策にある問題点は浮き彫りになっている。

「ラ・ファブリカ(工場)」と呼ばれるマドリーのカンテラは、かつて国内最高の生産力を誇り、近年も効率良く稼働してきた。“かつて”の部分は、歴代のスペイン代表選手を出身クラブ別に並べて数えると一目瞭然。他方、“近年”は、現在のリーガにマドリーのカンテラ出身者が38人、欧州の主要リーグにも39人いることでわかるだろう。

 ところが、いまのマドリーにとってカンテラは、トップチームへの直接的な戦力供給源ではなく、生産物を他所へ売りって利益を出すための一機関となっている。世代別代表で活躍してきたホセル、カルバハルを、この夏それぞれホッフェンハイム、レバークーゼンに1人約6億円で売却したように。

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