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パスサッカー志向強まるプレミア。
それでも薄まらない空中殺法の魅力。 

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山中忍

山中忍Shinobu Yamanaka

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posted2012/11/07 10:31

パスサッカー志向強まるプレミア。それでも薄まらない空中殺法の魅力。<Number Web> photograph by AFLO

第6節サウサンプトン戦で吉田麻也と競り合う、エバートンのフェライニ。トップ下で起用されることの多い今季は、10節終了時点で5得点2アシストとチームの好スタートに大きく貢献している。

「こっちじゃない、あっちだ!」

 10月27日のアーセナル対QPR(1-0)で、前列にいたアーセナル・ファンが不満の声を上げた。「こっち」とは、我々が座っていたメインスタンド側。「あっち」とは、相手ゴール側。

 アーセナルと言えば、足下でつなぐサッカーのプレミアリーグ代表格だ。ビルドアップ中には、中盤で横パスを繰り返すこともあり得る。しかし、80分過ぎまで0対0の膠着状態が続いた一戦では、前方の観衆から「前に行け!」、「撃て!」といった号令が絶えなかった。

 今季は、他クラブにも、同じような心境のファンが増えていることだろう。パスサッカー志向は、イングランドでも強まりつつある。10月最終週の第9節では、20チーム中11チームが、4-2-3-1ないし4-3-3の陣形でキックオフに臨んだ。

 システムで全てが変わるわけではないが、少数派になりつつある4-4-2よりも、よりコンパクトに、ポゼッション重視で攻めやすいシステムが、現場で好まれるようになったことは確かだ。

 昨季、実質的な4-5-1でCL優勝を成し遂げたチェルシーなどは、オスカルの左右にフアン・マタとエデン・アザールという、技巧派の2列目トリオを中心に、ボールを支配して攻めるようになり、試合結果だけではなく、そのサッカーの質も評価され始めた。

時代遅れの「直球勝負」でも、勝てば観客は満足するもの。

 だが、観衆がスタジアムに足を運ぶのは、何よりも、贔屓のチームの勝利を見届けるためだ。

 イングランドの人々が、テクニックやスタイルを軽視しているわけではない。サッカー好きな国民の目は肥えている。スタンドで反応を示すのは、ミドルシュートや、スライディング・タックルなど、派手なプレーだけではない。さり気ないが、完璧なボールタッチに対する感嘆のどよめき。ポジショニングの良さが可能にする、余裕のパスカットへの拍手。子連れのママさんサポーターでさえ、「スイッチ!」と叫び、逆サイドへの展開を促したりする。

 とはいえ、例えば、プレミアで最もチケット代が高いアーセナルのファンは、チームが、アーセン・ベンゲル監督の下で、模範的なサッカーをしているかどうかを確認するために、最高で25万円近い年間指定席や、1試合1万5千円もするチケットを買って、ホームゲームに通うわけではない。

 パスの本数が少なく、連係の頻度が低くとも、チームがスカッとゴールを決めて勝ってくれれば文句はない。ともすれば、「時代遅れ」と言われる「直球勝負」も、勝てるとあれば十分に観衆を興奮させるのだ。

【次ページ】 単純な昔ながらのサッカーで勢いに乗ったエバートン。

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