REVERSE ANGLEBACK NUMBER
絶対に失敗しない男・松本哲也。
日本シリーズで見せた小兵の意地。
text by
阿部珠樹Tamaki Abe
photograph byHideki Sugiyama
posted2012/11/07 10:30
日本シリーズでの6犠打は2006年の日本ハム田中賢介と並ぶシリーズタイ記録。
好捕、好走塁、適時打、盗塁……と大活躍の千手観音。
試合は負けたが、第3戦ではファイターズ金子誠の正面のライナーに飛び込んで好捕した。
中堅手の正面のライナーは判断がむずかしい。走者がいたので逸らせば確実に失点につながる。それでも大胆にダイビングして、グラブを縦にするような捕球でピンチを断った。この試合では、8回満塁の場面で三塁走者として本塁に猛スライディングを試み、捕手の一塁送球を阻んで併殺を防いだ。このプレーでジャイアンツは1点を加えることができた。
打撃でも第5戦の4回、前の打者の長野がバント失敗でチャンスが潰えたと見えたところで安打を打って出塁し、追加点につなげた。盗塁も、守備位置の好判断もあった。なんでもやってのける千手観音。
野球には、失敗を追及されるプレーと追求されないプレーがある。
野球では打者が本塁打が打てなくても失敗とはいわれない。投手が三振を奪えなくても同じ。失敗とみなされるのは特別な才能に恵まれなくてもできる、うまくゆくと思われるプレーだ。
代表が送りバントだろう。うまくできないと「高校生のほうがうまい」などと嘲笑される。フライの捕球などもうまくゆかないと失敗とみなされる。ひとつアウトをもらったも同然なのに、落とすなんてもったいないなどと実況アナウンサーや評論家に叩かれる。
投手でいえば四球、とりわけ得点したつぎのイニングの先頭を簡単に歩かせたりすると、「安打を打たれたほうがまだよかった」などと評される。ほんとうに安打のほうがよかったかは怪しい気もするが。
ともかく野球では、一見簡単そうなプレーができなかったときに失敗とみなされることが多い。われわれは野球の勝負は本塁打やタイムリー、投手の奪三振、無失点などで決まると考えがちで、それはたしかにそうなのだが、そうした失敗を追及されないプレーと同じくらい、いやそれ以上に勝敗を分けるのは失敗のあるプレーだ。ここでうまくゆくかどうかが大きく勝敗にかかわる。