野球善哉BACK NUMBER
「見極め」「指名」から「見守る」まで。
プロ野球スカウトの役割を再考する。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2012/11/07 12:25
セ・リーグのCSファイナルステージ初戦で勝利投手となった大野雄大。「野手のみなさんのおかげです」と周りを気遣う礼儀正しいコメントを残している。
日本シリーズが終了し、ストーブリーグが始まった。
ソフトバンクやオリックス、DeNAなどが活発にトレードを行うなど来季へ向けた動きが盛んになってきている。
入団する者もいれば、球団を去る者もいる。すでに発表されている、戦力外通告を受けた選手などには、甘くない現実が待ち受ける時期、ということになる。
11月9日と21日には合同トライアウトが予定されているが、そうした選手たちの動静を複雑な想いで見つめている人物たちがいる。
かつて彼らの入団のために尽力した、各球団の担当スカウトたちである。
あるスカウトは言う。
「この時期は辛いよね。最も辛いのは、変な噂があとから聞こえてくること。コーチから嫌われていたとか、試合にさえ出してもらえなかったとか。誰にだって好き嫌いはあるんだろうけど、そんな話を聞くのは本当、悲しいことだよね」
過去、このコラムでもスカウトの存在についてたびたび触れてきた。チームを強くする正攻法はスカウト部門の強化であり、スカウトの力量こそが、チームを成長させる原動力になるはず――という論旨だった。
ただ当時のコラムは、あくまで「スカウティング」という「選手を見極める」ところから始まり、「指名→契約」にこぎつけるまでの仕事、という話だった。だが、スカウトたちと私的に付き合っていると、あるいは、仕事として取材を進めていたりすると、スカウトの仕事はそれだけではないということが分かってくる。
それは、スカウトと入団した後の選手との人間関係についてである。
入団以前の選手を知る、理解者・庇護者としてのスカウト。
腕のいいスカウトほど、入団後の選手とほど良い関係を築けている。
選手たちの「プロ野球選手以前」を知っているスカウトの立場というのは、入団して以降の選手しか知らない監督やコーチとは一線を画す。過去をよく知る、いわば理解者・庇護者に近い存在なのだ。
いつだったか、楽天の吹石徳一チーフスカウトがこんな話をしていた。
「担当した選手から『今度一軍に上がるんです』という報告を受けた時はやっぱり嬉しい気持ちになる。スカウトをやっていて、一番の喜びだね。
基本的にアドバイスはコーチがするもんやから、選手が調子のいい時に僕から連絡を取ることはない。僕らが連絡を取る時があるとすると、それは調子が悪いときや、良くない情報が耳に入ってきたとき。『元気にしてるか?』っていう電話の時もあるし、『このままではクビになるぞ』ってハッパをかける時もある。
選手によってはコーチには言いにくいこともあるやろうから、相談みたいなことは特によく聞くようにはしている」