オリンピックへの道BACK NUMBER
メダリストでも競技を続けられない?
今こそ考えたい、スポーツ支援の形。
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byKyodo News
posted2012/08/27 10:30
銀座でのパレードに参加する400mメドレーリレー銀メダルチームの北島康介(手前)と松田丈志(奥)。松田は高校時代まで、地元延岡市の屋根がビニールハウスで出来ているプールで練習してきた苦労人。
競技環境に左右されて、引退せざるを得ないことも。
この状況を自力で打開しようとする選手もいる。
例えば、ロンドン五輪のオープンウォータースイミング代表だった平井康翔。彼は日本代表として出場する国際大会でも自費で参加せざるを得ないこともあったこれまでの事情を明らかにし、応援グッズを制作して販売することで、活動費を捻出しようと試みている。むろん、仕事を持ちながら競技に取り組む選手もいる。
しかし、好成績を残そうと思えば、いきおい、競技に専念する、ないしは専念に近い形を求めざるを得ない。支援してもらえるところが見つからなければそれは望めないし、ましてや、松田の状況を考えてみても、自力で環境を整えるのは、容易であるわけはない。だから、アスリートとしてのピークうんぬんやモチベーションの有無ではなく、競技環境に左右されて、引退せざるを得ないことだってある。
就職支援システム「アスナビ」の成功例もまだ少数にとどまり……。
なかなか向上しない競技環境に、日本オリンピック委員会(JOC)も、アスリートと企業を仲介する就職支援ナビゲーションシステム「アスナビ」を2010年にスタート。これまでに、競泳の上田春佳とカヌー・スラロームの竹下百合子がキッコーマン、近代五種の黒須成美が東海東京証券、スノーボードの家根谷依里が大林組など、10名に近い採用実績は残してきている。ただ、アスナビを利用してサポートを求めているアスリートは、それよりもはるかに多い。支援先を見つけられた選手は少数にとどまる。
史上最多の38個というメダルを獲得し、日本中を盛り上げ、大会が終わって今なお注目を集め続けるメダリストたち。
しかし、今日の状況が変わらなければ、メダリストとは言え、不安なく競技に打ち込み続けられるとはかぎらない。メダリストでなければなおさらそうだし、オリンピックの競技の中でも、注目の度合いに応じての違いもある。また、夏の競技よりも、冬の競技の方が、総じて競技環境面で苦しいという事実もある。
余韻が覚めない今だからこそ、次の4年へ向けて、あるいは2年後のソチ冬季五輪へ向けて、あらためて国家予算も含め、スポーツへの支援のあり方は考えられるべきではないか。
4年に一度のオリンピックでの活躍は、大会までの時間にかかっているのだから。