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日本マラソン復活へ金哲彦が提言!
世界と戦うには何が必要なのか? 

text by

松原大輔

松原大輔Daisuke Matsubara

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photograph byKaoru Watanabe/JMPA

posted2012/08/24 10:30

日本マラソン復活へ金哲彦が提言!世界と戦うには何が必要なのか?<Number Web> photograph by Kaoru Watanabe/JMPA

ロンドン五輪最終日の8月12日に行われた男子マラソン。日本勢として2大会ぶりの入賞を果たした中本(6位)は、「“マラソンの日本”を復活させたい」と語ったが、その道のりは険しい。

ペースメーカーの存在が選手を“受け身”にする!?

 スピードで言えば、日本の選手たちには、男子であれば2時間6分、女子であれば2時間20分にそれぞれ“壁”が存在します。不思議なものですが、マラソンでは誰か一人でもその壁を破れば、次々と他の選手も記録を更新していくのです。それはやはり“自分たちには無理だ”という心の壁をも突破することに他ならないからでしょう。

 日本の中だけで争っていては、井の中の蛙とでもいいましょうか、記録更新はなかなか叶わないでしょう。

 実は記録に関して国内のレースではもうひとつ、懸念材料があります。それは、ペースメーカーの存在です。国内のレースではすべてペースメーカーが付くようになり、その効果もあってそれなりの記録は出るようになりました。しかし、逆に選手たちはそれに慣れてしまい、30キロまでは何もせずともペースメーカーに付いていけばいいという、言わば“受け身のレース”を展開するようになってしまっているのです。

 そもそも、国内のレースではペースメーカーが1キロ3分で設定されているので、その時点で“世界で勝てる記録”は狙えません。そのまま1キロ3分で走れば2時間6分30秒。2時間6分をきるには1キロ2分57秒くらいで走ることが必要になります。もっとも、この1キロ3分にすらついていけずにいるのですが……。

既存の実業団の枠組みを超えた、藤原新にかかる期待。

 オリンピックや世界陸上といった大きな大会では、このペースメーカーなしで、自ら考えて走らなければなりません。

 今回、男子で入賞を果たした中本選手は去年の世界陸上を経験しています。直近でペースメーカーなしのレースを経験していたということが功を奏したともいえるでしょう。だからこそ、ペースメーカーが存在しない世界の大会に出ることは重要なのです。

 そういった意味では、藤原が既存の実業団の枠組みを超えて、自らの意志で動ける立場となったことは非常に大きなことだと言えます。彼がこれから世界のレースで戦い、磨き上げていけば、4年後のリオでも楽しみな存在となるでしょう。

 もちろん、“世界に出る”といっても簡単なことではありません。

 現状の実業団のシステムでは国内のレースが優先されます。また、元々はマラソンを強化するために、力を入れてきた駅伝が、マラソンのためではなく、駅伝を走ることそれ自体が目標となった選手が増えているのです。

 解説をしながらいつも思うのは、「駅伝の力をマラソンで出せたら、どれだけ強い選手たちが育つだろう」ということです。それほど駅伝では各選手がすばらしいタイム(1キロ2分50秒ぐらい)で走っているのです。

 話は最初に戻りますが、今回のオリンピックを日本人選手たちがある程度戦ったというのは、藤原を除けば、こういった環境にありながらもベストを尽くしたという意味なのです。

【次ページ】 競泳のような、世界へと続く育成フレームの構築を!

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