スポーツで学ぶMBA講座BACK NUMBER
履くだけで効果がある高機能シューズ。
市場を席巻したメーカーの戦略とは?
text by
葛山智子Tomoko Katsurayama
photograph byGetty Images for Reebok
posted2012/08/21 10:30
ドイツでリーボックが行なったイージートーンの技術に関する説明会。イージートーンは美脚やヒップアップ効果を謳って、新たな市場を獲得していった。
金7、銀14、銅17、合計38個という日本の五輪史上最多のメダルを獲得したロンドンオリンピックも幕を閉じた。寝不足になりながらも日本選手団の応援をし、他の国の選手に負けないこの日本選手の強さとは何かに想いを巡らせた読者も多いことであろう。
今回のオリンピックも女性の活躍をよく目にした。バレー、サッカー、卓球、バドミントン、競泳、そして3つの金メダルを獲得したレスリング。小原、伊調、吉田の金メダルを手にするまで顔色一つ変えずに戦う姿に、冷静さと「勝つ」ことにこだわり続ける精神的な強さを感じた。特にオリンピック3連覇を達成しても極度に興奮せずにはっきりとした口調でコメントする吉田には、王者になるものの威厳と風格があった。今回のオリンピックでも、多くのドラマがあったが、筆者は吉田の強さが強烈に印象に残っている。
そこで今回は、その「強さ」を企業に当てはめ、「企業の強さ(競争優位性)」とは何かについて考えたい。今回取り上げるのは、スポーツ用品メーカーのリーボックである。
アディダスの傘下に入ったリーボックの反攻。
リーボックは1980年代に「フリースタイル」や「ステップリーボック」などのフィットネスシューズ、そしてバスケットシューズの「ザ・ポンプ」を市場に投入し、一世を風靡した。リーボックのフィットネスシューズは、'80年代のエアロビクスブームやアメリカ・ニューヨークなどのOLが通勤用にも着用したことをきっかけに幅広く認知され、売上を伸ばすこととなった。
しかしその後、リーボックの牙城であったバスケットシューズ、女性のフィットネスシューズでの分野にも、ナイキ、アディダスなどの競合他社が台頭し初め、リーボックは2006年にアディダスの傘下に入ることとなる。
その3年後の2009年。リーボックは「イージートーン」というトーニングシューズを発売。世界中で爆発的な売れ行きとなる。日本でも2010年3月より大々的にTVCMが流され、一時は品薄が騒がれたほど市場を席巻した。アメリカではイージートーン人気により、クリスマスシーズンにはシューズ販売トップ3にリーボックがランクインするほどであった(Reebok Annual Report 2010)。
先行するMBTと、どう戦うか。
「トーニングシューズ」というのは、靴の裏に様々な工夫を施し、履いて歩くことで、体型の引き締めや姿勢の改善ができるといわれるシューズであり、その元祖はMBT (マサイ・ベアフット・テクノロジー)である。マサイ族の歩き方を観察し、学術的見地から製品開発をしたと謳うMBTは高付加価値のシューズとしてファンを増やしていた。
今回のトーニングシューズブームの火付け役となった「イージートーン」は、そのMBTのシューズの価格を大きく下回る価格で市場に投入された。さらに、MBTはその商品の特性ゆえに認定されたトレーナーの指導を受けて正規販売店で購入する必要があるが、「イージートーン」は、普通の靴屋で購入可能であった。またTVCMでは「バランスボールのテクノロジー」という言葉を使って、誰にとってもわかりやすく機能を訴求。価格・チャネル・製品特性とも手軽に購入できる仕組みにしたのが効を奏し、市場に受け入れられ、リーボックの売上拡大にも大きく貢献した。
2011 | 2010 | 2009 | 2008 | 2007 | |
リーボック | 1,962 | 1,913 | 1,603 | 1,717 | 1,831 |