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履くだけで効果がある高機能シューズ。
市場を席巻したメーカーの戦略とは?
text by
葛山智子Tomoko Katsurayama
photograph byGetty Images for Reebok
posted2012/08/21 10:30
ドイツでリーボックが行なったイージートーンの技術に関する説明会。イージートーンは美脚やヒップアップ効果を謳って、新たな市場を獲得していった。
自社の強みに、競合はどう対応するか。
「イージートーン」の発売に当たり、リーボックは、これまで築いたブランド認知に加え、流通チャネルやPR力といった自身の「強み」を発揮しているといえよう。リーボックはMBTと同じような売り方をするのではなく、多くの人々が手軽に購入できるようにしたことで市場を一気に広げている。矢野経済研究所のデータによると、国内におけるトーニングシューズのメーカー出荷数量ベースでは、'09年は67万足、'10年には193万足、'11年予測では351万足と急激な勢いを見せている(週刊「エコノミスト」 2011年11月15日号)。
この勢いに対し、マーケットの先駆者であったMBTはどのような反応をみせるだろうか。
自社の強みを考える際には、自社の本来の強みを事前に自覚しながら、競合の次の出方がどうなるのかを考えることが肝要なのである。つまり、競合が模倣をしてくるかどうかという視点が肝心である。
その点において、リーボックの「イージートーン」の打ち出し方は、MBTが模倣をするとしても模倣しにくいものであったことが読者にもおわかりいただけているであろう。
販売の仕方、販売網、価格、その商品のわかりやすさなどどれをとっても、模倣ができないわけではないが、模倣をするのに時間がかかる。たとえばトレーナーの指導なしで販売しても大丈夫か、その際トレーニングを受けたトレーナーに対してはどのように対応すべきか、そもそも正規販売店のみで販売をしてきたが一気にその販路を広げることができるのかなど、解決すべきポイントがある。この間に、「イージートーン」はさらに市場を拡大していくのである。ここに企業の強さの源がある。つまり、どれだけ競合と「差」をつけられるかということが「強み」の中に必要な要素となるのだ。
競合は1社だけではない。強さは瞬間風速だけではない。
手軽に購入でき、手軽にフィットネス効果を味わえる「イージートーン」は、通勤などの隙間時間を有効活用して美脚・ヒップアップ効果を手に入れたいと思う心をつかんだ。時代のニーズに合わせて、エアロビクスからトーニングへと関わり方を柔軟に変更しつつ、フィットネスシューズというリーボックの強さの原点に戻ってきたように感じる。社会のニーズにマッチした「イージートーン」は様々な媒体にとり上げられ、「女性のフィットネス=トーニング=イージートーン」というイメージを植え付けることにいち早く成功した。
しかし、競合は、MBTだけではない。
先に示した市場の拡大は、リーボックだけの功績ではなく、その後、スケッチャーズ、プーマ、ニューバランスなどの市場参入も影響している。リーボックに続くメーカーは、採用しているテクノロジーにはそれぞれメーカーの特徴があるが、価格帯、販売方法などについてはリーボックと大きく変わらない。つまり、追随が始まっているのである。これがリーボックの「強さ」を脅かす存在になる可能性があることは想像に難くない。
「強さ」は瞬間風速的に吹けばよいのではなくて、いかに持続的に維持できるかが勝負である。さもなければ、泥沼の戦いに自ら入ることになる。したがって、リーボックにとっての勝負は、ここからだといえよう。
いかに「トーニング=イージートーン」の座を守れる施策をとり続けられるのか。そしてさらにその先に「フィットネス=リーボック」のブランドを打ち立てることができるのか。そこが競争優位が持続的になるか否かの分かれ道になる。パフォーマンスを追求するアディダスとの棲み分けをしながら、ZIGTECH 、REALFLEXなどのプロダクトとともにアクティブスポーツやカジュアルスポーツのブランドイメージをどのようにリーボックが構築していくのか今後注目したい。