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3人の戦略家が英国から指示を出す、
マクラーレンの恐るべき情報戦術。
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byGetty Images
posted2012/08/12 08:01
ハンガリーGPで会心の勝利を飾って、降車した直後のハミルトン。指差した先に、マクラーレンのスタッフの笑顔がある。
サーキットから遠く離れたイギリスから戦略の指示を。
さらに驚くべきことは、マクラーレンのストラテジストがサーキットにいないことだ。
彼らはサーキットから遠く離れたイギリスのファクトリーから、インターコム(チーム内通信連絡システム)を使用して戦略の指示を出しているのである。
サーキットに入るためのパスの数は、FIAによってコントロールされているため、マクラーレンのような大所帯のチームでも、サーキットに入ることができるスタッフ数には制限がある。そうなってくると、パスは現場にいなければ仕事にならないというスタッフから優先的に配られることになる。
だからといって、マクラーレンがストラテジストは現場で不必要だと考えているわけではないのは、3人ものストラテジストを揃えていることでもわかる。チームによってはレース戦略はレースエンジニア、あるいはチーフレースエンジニアが兼任し、専属のストラテジストを持たないところもある。その中で、3人ものストラテジストをそろえているマクラーレンは、むしろ戦略にこだわるチームだと言っていい。
同じ“プランB”でもドライバーによって異なる意図が。
そのマクラーレンが1回目のピットストップ直前に、バトンに対してプランBへの変更を伝える。スタート直後に3番手を走行していたバトンが、それ以上のポジションを得るためには上位2台のハミルトンとロマン・グロージャンと異なるピットストップ戦略を採るしかなかったからだ。しかし、それは2回目のピットストップ直後に、バトンが2回ストップ作戦のブルーノ・セナの後ろに回ったことで未完に終わる。
そのころ、チームメートのハミルトンに対しても、イギリスのファクトリーにいるストラテジストとサーキットにいるレースエンジニアとの間では活発な意見交換がなされていた。それはプランBへ変更するかどうかである。ただし、こちらはバトンの場合とは異なる思惑があった。
「もし、グロージャンが30周台前半にピットインしてきたら、われわれもそれをリカバーするために直後にピットインし、その場合は3ストップ作戦に切り替えよう」というものだった。なぜ、マクラーレンはグロージャンが3ストップに切り替えてくるのではないかと予想したのか。それはそのときコース上ではグロージャンのペースのほうが速かったからだ。