グロージャンのピット戦略を予測し“プランA”を継続。

　ハンガリーGPが開催されているハンガロリンクはガードレールがないモナコとも例えられる。たとえ1秒ラップタイムが速くてもオーバーテイクが難しい。ハミルトンにテール・トゥ・ノーズに迫っていたグロージャンが、異なるピットストップ戦略に切り替えてきても不思議はないとマクラーレンのストラテジストは考えたからである。

　ところが、ロータス陣営は動かなかった。そして、39周目にグロージャンがピットインすると、それをカバーするために翌周ハミルトンもピットイン。最後に履いたタイヤであるミディアムは約30周は持つというデータを元に、マクラーレンのストラテジストは予定通りプランA継続をレースエンジニアに伝えるのである。

「僕たちがイギリス最初の金メダルだ」

　結局、レースはポールポジションからスタートしたハミルトンが、ピットストップ時以外はトップの座を譲ることなく、ポール・トゥ・ウィン。

　一見、ハミルトンの完勝のように見えたハンガリーGP決勝レースは、舞台裏ではさまざまな駆け引きが行われていたのである。だからこそ、セレモニーが終わってチームスタッフたちがいる場所に帰ってきたハミルトンが、真っ先に駆け寄って労いの言葉をかけたのは、ストラテジストからの指示を冷静に分析して、最終決定を下したレースエンジニアのアンディ・レイザムだった。

「もしかしたら、僕の勝利の中で今回がもっとも厳しいレースだったかもしれない。でも、チームが本当に最高の仕事をしてくれた。イギリスでオリンピックが開幕した週末での優勝には、特別な意味がある。だって、僕たちがイギリス最初の金メダルだったから」