F1ピットストップBACK NUMBER
3人の戦略家が英国から指示を出す、
マクラーレンの恐るべき情報戦術。
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byGetty Images
posted2012/08/12 08:01
ハンガリーGPで会心の勝利を飾って、降車した直後のハミルトン。指差した先に、マクラーレンのスタッフの笑顔がある。
「プランAからプランBに変更する」(ピット→バトン)
「現在、プランAのターゲットに入っている」(ピット→ハミルトン)
「プランBに変更する準備はできている」(ピット→ハミルトン)
こうした無線がマクラーレンのレースエンジニアと2人のドライバーとの間で交わされていたのは、7月29日に行われた第11戦ハンガリーGPでのことだった。
プランAとは2回ピットストップ作戦で、プランBは3回ストップ作戦だ。
今年のハンガリーGPは、コンピュータでのシミュレーションでは、2回と3回はほとんど差がないものの、最後の最後で若干、3ストップのほうが先にフィニッシュできるという結果が出ていた。
しかし、それはあくまで机上の計算。レースでのタイヤのパフォーマンスは始まってみなければわからない部分があり、それによってラップタイムは変わる。さらにシミュレーションは単独で走行した場合の計算。24台のマシンが一斉に走行するレースではコース上で異なるペースのマシンに出くわすこともある。そのため、チームは状況の変化に対応できるよう、あらかじめいくつかのレース戦略を立ててレースに臨む。ハンガリーGPでマクラーレンはプランA(2回ストップ)で2台をスタートさせ、バックアッププランとしてプランB(3回ストップ)を用意していたのである。
作戦参謀のストラテジストを3人も置くマクラーレン。
こうした戦い方は、何もマクラーレンだけが行っているわけではない。どのチームも事前にいくつかの作戦を立てているし、それは2回か3回かというピットストップ作戦だけでなく、セーフティカーが導入された場合にピットインするかどうかも、周回数ごとに細かく決めてレースに臨んでいる。
マクラーレンが独特のアプローチでレースに臨んでいるのは、そのレース戦略を立てる「ストラテジスト」と呼ばれるスタッフが3人もいることだ。
バトンに1人、ハミルトンに1人、そして2人を監視するチーフが1人。2人のストラテジストがベストな戦略をそれぞれの担当のレースエンジニアに伝え、最終的にレースエンジニアの判断によって、採用するかどうかが決定される。