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<ナンバーW杯傑作選/'06年7月掲載> ついに生まれなかった闘争心。 ~ドイツW杯をデータで徹底分析~ 

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戸塚啓

戸塚啓Kei Totsuka

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photograph byShinji Akagi/Koji Takano(JMPA)

posted2010/05/28 10:30

<ナンバーW杯傑作選/'06年7月掲載> ついに生まれなかった闘争心。 ~ドイツW杯をデータで徹底分析~<Number Web> photograph by Shinji Akagi/Koji Takano(JMPA)

“言いようのない物足りなさ”の理由とは?

 オーストラリア戦の終盤に求められたのは、ビルドアップの意図的な放棄だった。どんな手段を使ってもいいから、相手の攻撃の流れを断ち切るべきだったのだ。ロングボールに有効性を見出せなければ、徹底してクリアを続けてもいい。接触プレーで故意に倒れてもいい。オーストラリアを焦らせる方法は、いくらでもあったはずである。

 ベンチが頼りにならないのであれば、選手自身が能動的に試合を進めていくしかない。間合いを取るしかない。選手交代に積極的でないジーコのもとで戦ってきた60数試合に意味を持たせるのは、監督任せではない選手自身の判断でなかったのか。

 ジーコと過ごした4年近い日々は、順風満帆にはほど遠かった。アウェーのテストマッチや国際大会で注目すべき好結果を残した反面、真剣勝負はいつも紙一重だった。

 自らの立場をしばしば危うくさせた僅差のゲームに、ジーコは「修羅場をくぐってきた精神力」を見出していた。私もそう思っていた。アジアの舞台で培った経験でも、W杯で苦境を切り抜ける手助けにはなる。それこそは、4年前のトルコ戦で得た教訓でもある。

 ところが、選手自身が経験を生かすことを拒んだ。ドイツW杯のチームが観る者に言いようのない物足りなさをもたらしたのは、Jリーグはもちろんテストマッチでも当然のように使ってきた狡猾さや泥臭さを、日本に置き忘れてきたからに他ならない。

ドイツW杯シュート数ランキング、日本の順位は……。

 こんなデータがある。

 今大会の日本は3試合で27本のシュートを記録したが、これは32カ国のなかで7番目に少ない。クロアチアは33本、オーストラリアは46本(イタリア戦を除く)である。日本と同じように2得点しかあげられなかったパラグアイは39本で、1ゴールに終わったアンゴラでさえ34本を記録している。

 シュート数との関連で注目したいのがクロスの数だ。日本の総クロス数は50本で、こちらは32カ国のなかで6番目に少ない。日本よりシュート数が少ないセルビア・モンテネグロは67本、トーゴは54本、アメリカは75本を数える。シュート、クロスともに日本より少ないのは、サウジアラビアとチュニジアのわずか2カ国だけである。

 ジーコはシュートの精度を敗因にあげた。ドイツ戦で急騰した高原直泰の評価は下落し、柳沢敦は戦犯の烙印を押された。

 好機を逃さないのはFWの責務だ。彼らは批判を免れない。強引さが求められる局面で信じられない遠慮をするシーンの、どれほど多かったことか。クロアチア戦の柳沢のシュートミスも、加地亮はクロスを入れてくると決めつけていたからだと思う。自分のところへこぼれてこい、おれが決めてやるという気持ちがあれば、シュート性のボールに合わせる準備はできたはずだ。

 ただ、2トップがシュートに持ち込める場面が、それほど多くなかったのも事実である。クロスの絶対数が少なければ、DFとの駆け引きに持ち込みにくい。ゴールへの布石を打つのが困難になる。シュートが少なかったことについてだけなら、高原や柳沢の言い分にも耳を傾ける余地はある。

【次ページ】 日本の攻撃は圧倒的にショートパス偏重。

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