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井岡vs.八重樫の激闘を徹底検証。
本物の世界戦で本物の王者を見た!
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph byHiroaki Yamaguchi
posted2012/06/21 11:30
対戦中、何度もドクターストップ寸前までいったが、八重樫は「僕はもともと目が細い顔なんですよ! 続けさせて下さい!」と言い続けた。井岡は今後はライトフライ級に階級を上げて2階級制覇を目指すことになる。八重樫も同様に階級を上げ、再戦の意志を表明している。
八重樫に決してポイントを取らせないという戦い方。
4回終了時の公開採点は3者ともドローだったが、井岡陣営は首をかしげていたという。
「ペースをつかんでいると思っていたので意外だった。少し焦りました」(井岡)
セリフとは裏腹に、井岡はおおむね冷静だった。八重樫のまぶたを腫れ上がらせた右のショートパンチは狙い通り。事前の分析で当たると用意していたパンチだった。
ジャッジの支持を得るという視点に立つと、持ち味の堅守は見逃せない。
八重樫が迫力のある連打で攻め立てる場面で、井岡はそのほとんどをカバーリングで対処している。一見したところ八重樫の攻勢に見えるのだが、井岡がしっかり防御をしているので、八重樫のポイントにはならない。特に海外のジャッジはそういう見方をする傾向が強い。
また、相手に攻勢を許したあとの対応にもうまさを感じさせた。
八重樫がパンチをまとめてきたときは、必ずジャッジの頭の中でそのシーンのイメージが固まる前に打ち返した。たとえカバーリングでクリーンヒットを許さずとも、打たれっぱなしではやはり印象が悪い。だから古今東西の強豪選手は打たれたらすぐさま反撃するのだ(八重樫もすぐさま反撃していた)。
判定勝利のカギは、井岡のジャブの巧みな使い方にあった。
攻撃面のキーは生命線のジャブだった。きれいに顔面を射抜くジャブはジャッジに好印象を与える。
「2ラウンドが終わって帰って来たときに指示しました。とにかくジャブ。ジャブを打ってワンツー、左フック、右アッパーを打ってジャブやと」(井岡の父、一法トレーナー)
どちらにポイントを振るか悩ましいラウンドで、ジャブの効果は確かに大きかった。
八重樫に比べて迫力に欠けるパンチも、実は硬質で、ピンポイントで相手にダメージを与える力があった。八重樫のまぶたが見るも無残に腫れてしまったことと、パンチの質は無関係とは言えないだろう。
パワーと攻勢の八重樫。堅守と緻密な攻撃の井岡。2つを天秤にかけた結果、わずかに後者の上回るラウンドが多かったということだ。これがジャッジの出したクリーンで正当な結論だった。