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パッキャオの苦戦とゆるやかな衰退。
~最強王者、まさかの王座陥落~
text by
芝山幹郎Mikio Shibayama
photograph byGetty Images
posted2012/06/17 08:01
疑問の声が噴出した判定に、WBOは国際ジャッジ5人による精査を行なうことを明らかにした。
マニー・パッキャオが負けた。
2005年3月以来、約7年ぶりの黒星だ。連勝も15で止まった。
しかし――。
負けた、という言い方は適切だろうか。
パッキャオは、倒されたわけでも翻弄されたわけでもない。どちらかといえば、ジャッジに勝ちをもぎ取られたにすぎない。判定の瞬間、私はうなった。そりゃあない。負けをつけることはないだろう。
2012年6月9日のWBOウェルター級タイトルマッチ。王者のパッキャオに挑んだのは、29戦無敗(28勝、1無効試合)のティモシー・ブラッドリー(28歳)だった。
ブラッドリーは同じWBOのスーパーライト級王者だ。つまり1階級上げての挑戦で、破壊力の面から見ると、どうしても一枚足りない印象を与える。実際、KO勝ちは12度しかないし、デザート・ストーム(砂嵐)というニックネームも、執拗で不規則なパンチの出し方に由来するようだ。ただ、スピードはある。攻めるスピードはもちろん、柔らかい上体を生かした守りも速度を感じさせる。
素速いブラッドリーにパッキャオの連打が決まらない。
パッキャオは'11年11月のフアン・マヌエル・マルケス戦で意外な苦戦を強いられた。ガードを固めてカウンター攻撃に徹した38歳のヴェテランに苦戦したのだ。私も、あのときは首をかしげた。この手で来られると、今後は楽じゃないな。頂上対決でぶつかるかもしれないメイウェザーは、もっと速いし、もっとカウンターが巧いからだ。
ご承知のとおり、パッキャオ対フロイド・メイウェザーの夢対決は、なにやかやと理由がついて、引き伸ばされる一方だ。となると、両者はともに「数多い前哨戦」を強いられてしまう。ブラッドリー戦も、その一環だ。オッズは、4対1でパッキャオ有利。
パッキャオは最初からパンチを当てていった。ただ、ブラッドリーの動きが予想以上に速く、以前のパッキャオが得意とした二段攻撃、三段攻撃に結びつけることができない。パンチが滑って、決定的なダメージを与えることができないのだ。私は思った。これはもしかすると、意外に手を焼くかもしれないぞ。