野次馬ライトスタンドBACK NUMBER
開星の“やくざ監督”野々村直通氏が、
DeNA梶谷に送るアツすぎるエール。
text by
村瀬秀信Hidenobu Murase
photograph byHidenobu Murase
posted2012/06/11 10:30
写真は開星高校野球部監督時代の一コマ。今年3月に高校を定年退職して以降は、教育評論家としても活躍中で、さっそく『やくざ監督と呼ばれて』(白夜書房)を上梓している。この6月には勝谷誠彦氏との共著となる『にっぽん玉砕道』(産経新聞出版)を出版予定。
3年連続の選手権大会出場は、梶谷の涙から始まった。
「この試合は最後の練習試合で勢いをつけて予選に乗り込むぞ! という意気込みで挑んだんだけどね。勝てると思うとったら、まぁ完璧に抑えられてね。相手チームやスカウトが何人も見に来ている前で、『オンドリャァァァァ!』って次の日に声が出なくなるほどの大説教をかましたんですよ。
生徒たちに『ワシはこの試合をどういう気持ちでやれというたんや! 言うてみい!』って詰め寄ったら、『夏の大会と同じ気持ちで戦えということです!』と選手が答えた。『だろうえ。それなのにおめえらは負けても誰一人泣いとらん。夏にこんな悔しい負け方したら、地面に這いつくばって人生終わったように泣くんと違うかえ。最後の夏と思って本気でやっとらん証やろが! お前らの夏は終わったんじゃー!!』とワシが狂いまわったんですよ。スカウトも『気の毒やな……』ってこそこそと帰るぐらいのね(笑)。
そうしたらよ、その時にチームで最初に梶谷がポロって涙を流すんですよね。それをきっかけに他の選手も次々と涙を流しはじめてね、この時に『甲子園に行ける』と思いました。
練習試合は『いい勉強にしようや』ではいかんと思うのですよ。相手が強かろうが弱かろうが、あらゆる手段を講じて、なんとしても敵を倒さないけんと必死になって戦う。それを繰り返すことで闘う集団になるんです。その真意を、本気になって戦う厳しさというものに、梶谷は気づいてくれたんです。もしかしたら『このままじゃ殺される』と思ったのかもしれんですけど(笑)」
この往年の大映ドラマのような熱いドラマがあった直後に、開星は4年ぶりの甲子園を決め、その後、島根県記録となる3年連続での選手権大会出場へと繋がっていく。「すべては梶谷の涙からはじまった」。野々村氏はそう回顧する。
今こそベイスターズには“玉砕”魂が必要だ!
そして、今。ベイスターズにはなりふり構わず戦う選手が求められている。現在は代走要員となり、二遊間のライバルたちの間では後塵を拝している梶谷。だが、今この一球に真心を込め、命を懸ける野々村野球の精神が必要とされる場面は、必ずくるはずだ。
「ワシはね、今はイチ梶谷ファンですからね。片岡光宏(元広島)、杉原洋(元横浜)に昨年の白根(ソフトバンク)に梶谷と教え子が4人プロに入っとるけど、上で野球をやる時点で開星の野球レベルを超えたわけですから野球を教えることなどおこがましくて何もいえん。
特に梶谷の時はドラフトが決まった日に、彼を呼んでね。『昨日までは俺が監督だが、今日プロの道が拓かれた時点で俺は二度とお前に野球のことで口を出さない。俺は頑張れ頑張れと声援を送る梶谷のファンになる。だからお前は特別な才能の集まるプロ野球の世界でなんとか生き抜け!』と言って送り出してからは、お互いに連絡もほとんど取らない。毎朝、新聞を見て『お、昨日は試合に出た! おっしゃ盗塁決めたか!』って一喜一憂しているだけよ。
卒業後も『ワリャーオンドリャー』って喧しく言うとるイメージかもしれんですけど、上の世界に行けば、いつも頑張れ頑張れという思いだけで見とります。今も苦しんでいるようですが、諦めずに頑張ってほしい。絶対にできると思って強い気持ちでやることだけ。逃げるな! ブレるな! 群れるな! ですよ」
たとえ三振に終わろうと、盗塁を失敗しようが、玉砕を恐れずに戦ってほしい。もう一度、がむしゃらに前へ前へと進もうとする梶谷のあの姿を、ベイスターズファン、そして誰よりも一番のファンである野々村氏が待ち望んでいる。