野ボール横丁BACK NUMBER
「考える投手」とはどういうことか?
楽天の新人・釜田佳直が伸びる理由。
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2012/06/06 12:05
6月3日の広島戦。4回二死満塁の場面で打撃好調の堂林翔太を三振に仕留めた釜田佳直。18歳のルーキーは、今季2勝目を挙げた。
「球は速いけど、打たれましたね」という記者の質問。
高校時代から「150キロ」という肩書きばかりが先行していた釜田だが、浅井は、彼の最大の長所を「課題をことごとくクリアした点」だと言い切る。
浅井には忘れられないシーンがある。2010年秋の明治神宮大会でのことだ。金沢高は1回戦で東北高に0-3で完敗した。すると試合後、ある新聞記者が釜田にこんな質問をしたのだ。
「球は速いけど、けっこう打たれましたね」
横で取材を受けていた浅井もそのやりとりを耳にしていた。
「ちょっと待ってよ、って。150キロ投げてるピッチャーに、そんな聞き方するの? って。釜田、悔しかったと思いますよ。目に涙ためてましたから」
釜田は高校1年春、いきなり143キロを出し注目を集めた。その後、少しずつ球速が伸び、2年秋についに大台の150キロを突破し、152キロをマーク。だが、それでも全国の舞台では通用しなかった。
「自分で投げてても、速いなー、というのはあんまりなかった。だから、ここから成長しないと全国では勝てないんだろうなと思った」
それから釜田は一度、フォームをすべて解体した。
「力」を入れずとも打ち取れるボールをマスターする。
「失敗したら秋よりも悪くなるとは思いましたけど、これからまだまだ野球人生は続くと思ったので、今やらないとダメだと思った。でも、2月ごろまでは試行錯誤していました。投げ方を忘れてしまったときもあって。それで選抜大会まであと1カ月というところで、いったんリセットして、キャッチボールのとき、何も考えずに、ピッチャーとしての本能のままに投げた。そうしたら、いいボールがいったんです」
真っ直ぐの質が明らかに変化したのがわかった。
その成果は、すぐに表れた。
3年春の選抜大会、釜田は、1回戦の加古川北戦で目の覚めるような快投を披露する。4回までは5者連続三振を含む8奪三振で、パーフェクトピッチング。ところが、そのあとバテてしまい、結局、0-4で敗れてしまった。
「とにかく結果が欲しかったので、最初からずっと全力で投げていた。そうしたら、最後、ヘロヘロになってしまって……。序盤は力で押せたんですけど、力がなくなったら、もうダメでしたね」
そして、今度は夏までに、最後まで投げ切るためのフォーム改造に着手した。つまり「力」を入れずとも打ち取れるボールをマスターしようとしたのだ。