自転車ツーキニストのTOKYOルート24BACK NUMBER
自転車からスカイツリーを仰げば、
銀座、浅草、そして業平橋。
text by
疋田智Satoshi Hikita
photograph bySatoshi Hikita
posted2010/04/16 06:00
かつて浅草に、日本一のタワーがあった。
うーむ、この浅草界隈、実は歴史的にも「B級芸術な塔」が似合う場所ではあるんだよね。というのは、ここ浅草には、かつて「凌雲閣(りょううんかく)」、通称「浅草十二階」という意味なし塔があったからだ。高さは約52メートル。当時「日本一高い塔」という名をほしいままにしたが、関東大震災で崩壊した。その猟奇的な(?)佇まいは、江戸川乱歩の小説などにも出てくるぞ。
しかし、なんだ。隅田川を挟んでの畔から、どこからでもスカイツリー。運河に映る「逆さスカイツリー」とか、ビルの谷間の「隙間スカイツリー」とか、様々なアングルでスカイツリー様は姿を見せてくれる。
周囲に視界を遮るものが何もないから、本当にどこからでも見下ろされているという格好だ。これでまだ半分(!)だってんだから、ちょっと驚くね。
完成時には634メートルにもなる。いったいどんなことになってしまうのであろうか。
下町に巻き起こったデジカメブーム。
ふと周囲を見ると、あれ、住民然としている人が、何人もデジカメかケータイで写真を撮っている。この近くに住んでいるんだろうから、いつでも見られるでしょうに、と思うと、そうでもない。みんな「記録で撮ってます」なのだそうだ。
牛島神社近くでカメラを構えていた初老の紳士に聞いてみたら、こう語ってくれた。
「ああ、みんなそうですねぇ。そう、僕もほぼ毎日、定点で撮ってますよ。そのために広角レンズのデジカメをわざわざ買ったんですから。少しずつ伸びていくのが楽しみでねぇ。そうだなぁ、映画の『Always 三丁目の夕日』の影響が大きいんでしょうかね。あの映画の中で、東京タワーがまだ建設途中って、映像が出てくるでしょう。あれと同じことが目の前で起きてるんで、記録しておかないともったいない、という気になるんですよね。この姿は今しか見られないんだから。完成してしまったら、もう当たり前の風景になっちゃう」
またしても「三丁目の夕日」だ。
しかし、さもあらんとも思う。日々変わりゆく今の姿は、今しか見られない。完成したら、もう毎日同じなのだ。
この付近の人々はみんなそう思って、思い思いそれぞれに今のスカイツリーを記録している。デジカメをはじめとするデジタル記録装置がこんなに行き渡ったというのも大きいと思う。ちなみにネット検索してみると分かるよ。「スカイツリーができるまで」を記録しているブログやウェブサイトの、もう多いこと多いこと。
スカイツリーの芸術性はA級? B級?
いよいよ足下にやってきた。
太いなぁ。東京タワーと較べると、一言「太い」というのが、誰にとってもの印象なのではないか。当然ながら、足下にくると、もはやファインダーにすべての姿が入らない。一応レンズは広角28ミリなのにもかかわらずだ。
業平橋という地域は、そもそもでいえば、これぞ「下町の住宅地」と言うべき地域で、都営アパートや小さな民家がひしめき合う、つまりは非常に「背の低い街」である。そこににょきにょき生えた異常巨大塔。
そのあまりの違和感。ミスマッチぶり。繰り返すけれど、現実感のなさ。
うーむ、すごい。あまりに巨大すぎて何が何やら分からない。
もう足下にくるとあまりの迫力、あまりのデカさに圧倒されて「B級芸術」なんて、まったく思いもしなくなる。すいません、お見それしておりました。
ならば、A級? 純粋芸術? いや、これはもうそうしたモノを踏み越えた何かだ。