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ポスティング制度が生む残酷な格差。
中島、青木を襲うMLBバブルの崩壊。 

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鷲田康

鷲田康Yasushi Washida

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photograph byHideki Sugiyama

posted2012/01/07 08:01

ポスティング制度が生む残酷な格差。中島、青木を襲うMLBバブルの崩壊。<Number Web> photograph by Hideki Sugiyama

テキサスを訪問し、周辺環境を視察するなどレンジャーズとの交渉を続けているダルビッシュ有(左)/交渉の難航が伝えられていた中島は、ライオンズ残留となった(右)

 あまりの格差に驚きを隠せない。

 この原稿がアップされた後に、日本ハムからポスティング制度を使ってメジャー移籍を目指したダルビッシュ有投手のテキサス・レンジャーズ入団が決まるだろう。

 ご存知のようにレンジャーズのダルビッシュ落札額は5170万3411ドル(約39億8100万円)で、ボストン・レッドソックスの松坂大輔投手の入札額を上回る史上最高値をつけた。しかも、契約も6年9000万ドル(約70億円)前後という情報が流れるなど、レンジャーズが注ぎ込む金額は破格なものとなるようだ。

 移籍が実現すればダルビッシュを手放す日本ハムも潤い、本人も希望通りにメジャーのマウンドに立てる。そしてレンジャーズも願っていた補強ができる。ポスティング制度のおかげで三者が三様にウィン・ウィン・ウィンの結果になるわけだ。

 だが、このダルビッシュの破格の移籍の裏では、ポスティング制度のひずみが露呈してきていることも見逃せないだろう。

低条件提示のヤンキースに中島は西武残留を選択。

「もしポスティングではなくフリーエージェントで移籍を目指せば、もう少し違った結果になっていたはずです」

 ある代理人が指摘するのは、西武から同制度でのメジャー移籍を希望した中島裕之内野手のケースだった。

 中島はニューヨーク・ヤンキースが入札したが、その入札額はわずか250万ドル(約1億9500万円)。ヤンキースすらも、まさかこの金額で交渉権を得られるとは思っていなかったと伝えられている。

 それだけにヤンキースと中島の交渉は、常にチーム主導のものとなった。あくまで内野の控えとするヤンキースが提示した年俸は100万ドル前後(約7000万円)。中島サイドには交渉の余地もほとんどないままに期限切れを迎えることになってしまった。おそらくこちらは原稿がアップされる頃までに交渉は決裂、中島は来季も西武に残留することになっている可能性が高い(記事入稿後の1月6日早朝、交渉決裂をヤンキースが発表/編集部注)。

ブルワーズが落札した青木も交渉の主導権は球団側に。

「ポスティングの最大のリスクは、1つの球団としか交渉ができないという点です」

 こう指摘するのは前出の代理人だ。

 ここにきてメジャー球団の日本人野手に対する評価が急落している。その流れは中島だけでなく、ヤクルトから同じくポスティング移籍を目指している青木宣親外野手のケースでも見てとれる。

 青木の場合は、最終的にはミルウォーキー・ブルワーズが落札したが、その落札額は中島と同じ250万ドル。しかも、契約するかどうかは、8日(日本時間の9日)に青木がブルワーズ関係者の前で公開練習を行なって決定されることになっている。

 そうした評価が背景となって、入札額を下げているのは確実だが、こと入団交渉というのは別ものだというのだ。

【次ページ】 ポスティングよりもFAのほうが選手に有利な選択肢が。

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