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モウリーニョとモウリーニョ・チルドレン。~CLで早くも実現した古巣との対決~
text by
芝山幹郎Mikio Shibayama
photograph byGetty Images
posted2010/03/04 00:00
モウリーニョとモウリーニョ・チルドレン。~CLで早くも実現した古巣との対決~
ねじれ、と呼べば事足りるのだろうか。モウリーニョ・チルドレンがモウリーニョを相手に戦っている。逆にいうなら、モウリーニョが自身の教え子を相手に戦っている。
2010年2月24日、チャンピオンズリーグ決勝トーナメントの第1戦、インテル対チェルシーの試合を見ながら、私はなんとも片付かない気分を味わっていた。
いうまでもないが、モウリーニョはチェルシーの知将として名を轟かせた。2007年9月に解雇されるまでの3年半、彼とスタンフォード・ブリッジは眤懇の間柄だった。チェルシーは勝ちつづけ、モウリーニョは見得を切りつづけた。わがままオーナーのアブラモビッチがあと少し辛抱すれば、やがてはチャンピオンズリーグの栄冠を手に入れることも確実なように見えた。
が、蜜月は破れた。モウリーニョはクラブを追われ、イタリアに飛んだ。インテルの監督を引き受け、就任早々リーグ王座に輝いた。今季の制覇も十中八九達成できるはずだ。
古巣との第1戦はモウリーニョが“クビ差”で勝利。
そんなモウリーニョが古巣チェルシーとチャンピオンズリーグで戦っている。いずれ見られる光景とは思っていたが、意外に早い訪れだった。インテルが、グループリーグで予想外の苦戦を強いられたからだ。
試合の2週間前、モウリーニョは案の定マインドゲームを仕掛けた。英国メディアを前に記者会見を開き、「いまのチェルシーは、私が率いていたころのチェルシーとまるで同じだ。アネルカやイバノビッチは加わったが、基本的にはなにひとつ変わっていない。戦術どころかウォームアップの方法さえ前と同じじゃないか」と挑発したのだ。ただし、そのあとで「私は彼らを知っているが、彼らも私を知っている。私の指導法も、私のゲームプランも相手に知られているのだよ」とウィンクしてみせることは忘れていない。
で、結果はご存じのとおりである。インテルは本拠地ミラノでのファーストレグに勝利した。スコアは2対1。アウェイゴールは許したものの、1点差での勝利は競馬でいうならクビ差のリードに当たるだろう。全体的にインテルが守り勝った印象は残るが、強運に味方された部分もなしとはしない。たとえば、前半終了間際にカルーがボックス内でサムエルに倒された場面などは、PKの判定が下ってもまったくおかしくなかった。つまり、勝負の行方はセカンドレグに持ち越されたといってよいのではないか。