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苦節云十年。ついに報われた、あるチェルシーファンの告白
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph byGetty Images/AFLO
posted2005/05/30 00:00
プレミアシップでは過去10年間、マンチェスター・ユナイテッドとアーセナルがスポットライトを独占してきた。だが2004‐05シーズンの主役は、誰が何と言おうとチェルシーだった。最終的な戦績は38戦29勝1敗8分け。2位のアーセナルに12ポイントもの差をつけるという圧倒的な強さを見せ付けながら、通算2度目のリーグ優勝(リーグカップと併せ2冠)を成し遂げた。ちなみにチェルシーは、最多ポイント数(95ポイント)や最少失点数(15点)などのリーグ新記録も樹立している。チームの中核を成すジョン・テリー(DF/キャプテン)とフランク・ランパード(MF)の両名も、それぞれ選手協会と記者協会によって年間最優秀選手に選ばれた。
待ちに待った優勝が確定したのは第35節、アウェーでのボルトン戦。優勝セレモニーは翌週の5月7日、シーズン最後のホームゲームとなったチャールトン戦の後に行われた。チームに授与される優勝トロフィーを持ってピッチに入場したのは、50年前の優勝チームでキャプテンを務めたロイ・ベントリー。当年80歳の元キャプテンが壇上に置いたトロフィーを、24歳の現役キャプテン、ジョン・テリーが頭上に掲げた瞬間、スタンフォード・ブリッジのボルテージはピークに達した。テリーはリーグカップ優勝時(2月)に、「プレミアシップのトロフィーを手にしたら泣いてしまうだろう」とコメントしていたが、彼の目に涙はなかった。だがその様子を見ていた筆者は、恥ずかしながら目を潤ませてしまった。「軟弱者」、「金の亡者」などの罵声にもめげずにサポートしてきた努力(?)が、ついに報われたのだ。
そして22日には、オープントップの2階建てバス(色はブルー)による優勝パレードも行われた。20万人を越えるファンが繰り出し、キングス・ロードは青一色。彼等が身に付けるTシャツ、マフラー、旗などには誇らしげに“Champions”の文字が躍る。ハードコア風のサポーターの腕には、新しいクレスト(紋章)のタトゥーも目に付いた。タトゥーは、クラブ創立100周年と、半世紀ぶりのリーグ優勝という二つの栄光がわかるようなデザインになっていた。さすがに筆者は刺青までは彫らなかったが、歴史的なシーズンを経験した証として「身体に記憶を刻み込みたい」という気持ちは良く分かる。実際、前回のリーグ優勝は今から50年も前のこと。ひと昔前どころの騒ぎではない。現役選手はもちろん、筆者を含む「現役サポーター」にとっても今回は初優勝も同然だった。これでやっと、夢にまで見た“チャンピオン”コールを、ピッチ上の選手たちに送ることができる。
今年のチェルシーは、シーズン前半には4冠の可能性も騒がれていたが、最大の目標はあくまでもプレミアシップのタイトル獲得にあった。チャンピオンズリーグにしても、同じく準決勝で散った昨年ほどのショックはない。これもリーグ制覇による心のゆとりと自信のなせる業なのだろうか。
事実、チャンピオンズリーグを制してもプレミアシップ優勝を逃していたら、チェルシーは「欧州向きの多国籍軍」の一言で片付けられてしまったに違いない。まずは国内。欧州はその後でも遅くはない。独走態勢のままリーグ優勝を飾った今でさえ、「リーグを連覇しなければ本物とは言えない」だの、「金でタイトルは買えても歴史は買えない」だのと言われているのだから。
ならばこれから歴史を作ればいいだけだ。実力とハングリー精神を兼ね備えた若い選手層、新たなトレーニング施設、そして莫大な資金力。長期政権に向けて、現在のチェルシーほど条件が揃っているクラブはない。ということは来年もパレードが見られるということか!?ちなみに前回優勝した時には、翌年の成績が16位に終わっているが、21世紀バージョンのチェルシーには、そんな心配も無用だと信じたい。それにしても毎年毎年、チームにトロフィーがもたらされるというのは一体どんな気分なのだろうか。久方ぶりの優勝と連覇ではどちらが興奮するのだろう?ちょっと自慢気な顔をしながら、早速ユナイテッド・ファンの友人にでも訊いてみるとしよう。