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From:イスタンブール「リバプール優勝!絶品の味わい。」 

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杉山茂樹

杉山茂樹Shigeki Sugiyama

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photograph byShigeki Sugiyama

posted2005/05/31 00:00

From:イスタンブール「リバプール優勝!絶品の味わい。」<Number Web> photograph by Shigeki Sugiyama

シーズン初頭から狙いを付けていたリバプール。

CL決勝でミランを破り、優勝した。

弱者のその戦い振りは、日本代表に欠けているある事を示していた。

 ミラン対リバプール。いつもに比べ、期待はしていた。今シーズンの頭から、これは行けると、密かに狙いを定めていたリバプールが、強者のミランと決勝戦を争う。これ以上の展開は望めない。しかも下馬評は、ミラン優位が圧倒的だ。もしこれで、リバプールが優勝すれば、人一倍してやったりの痛快感を味わえる。そして実際、僕の予想では、贔屓目を完全に取り払っても、50%はその確率がある。まさに、チャンス到来だ。僕は、リバプール・サポーターとは一味違う期待感を胸に秘め、イスタンブールへ向かった。

 成田を発ったのは、キリンカップ、日本対ペルー戦が行われた翌日である。試合会場の新潟には、もちろん僕も駆けつけた。試合前に予想したスコアは0−0。日本がゴールを奪うことはないだろう。例によって、悲観的な予想を抱きながら観戦に臨んだ。

 新潟では、予想をわずかに外した。1.8軍のペルーに、ロスタイムにゴールを奪われる醜態までは想像できなかった。絶対負けられない戦いはどこへやらだ。

 イスタンブールにやってきたリバプール・サポーターは、半端な数ではなかった。7万5千人収容のオリンピックスタジアムを、半分以上埋めていた。その数約4万人。対するミランサポーターは1万5千人がせいぜいだ。下馬評をそのままひっくり返した関係が、スタジアムに出来上がっていた。3−3のスコアは、(下馬評+サポーター数)÷2=の答えに一致する。僕は、記者席に腰を据えるなり、50対50の関係をいっそう確信した。

 3−3からPK戦にもつれ込んだ戦いは、リバプールに軍配が上がった。物語は予期した通りのシナリオになったわけだが、その中には想定外の驚きがたぶんに含まれていた。

 アンフィールドに流れる「ユールネバーウォークアローン」は、確かに凄い。サッカーファンならば、生きている間に是非一度とお勧めしたくなる絶品の味わいが体験できる。しかし、イスタンブールにこだました「ユールネバーウォークアローン」も、負けてはいなかった。チャンピオンズリーグ決勝という晴れがましい舞台とも、イスタンブールという異郷とも、この上なくマッチした。嘘偽りが一切ない本物の中の本物であることを、現場で僕は改めて確信した。PK戦の勝利は、サッカーの神から与えられたプレゼントだったように思う。

 神とて吃驚するのだから、僕が吃驚するのも当然だ。この試合がテレビを通してどのように伝わったのか知る由もないが、現場との落差は天と地ほどの落差があったに違いない。観戦ツアーでイスタンブールを訪れたファンは、感慨も新たに帰国の途に着いたはずだ。

 もしPK戦でリバプールが敗れても、感激の種類は変わらなかったと思う。リバプール・サポーターは胸を張って「ユールネバーウォークアローン」を大合唱しただろう。僕もスタンディングオベーションで、健闘を讃えただろう。それこそがこの試合のポイントである。

 言ってみれば、日本はリバプールだ。絶対に負けられない戦いだったミランではない。ワールドワイドな視点に立てば、負けて元々の弱者、チャレンジャーであるはずだ。どうもその辺りを間違えているのが、いまの日本だ。W杯本大会でもし敗れても、観客から拍手を送られるようなサッカーをしなくちゃいけない。バーレーンや北朝鮮にはともかく、強者に対し、絶対に負けられない戦いをしたのでは、観戦者の賛同も共感も得られない。消えてくれてありがとうと言われかねない情けない存在になる。それじゃあマズイだろうと、僕はいま声を大にして叫びたい気分だ。

 リバプールはそういう意味で、僕にとって最高のチームだった。「だった」と過去形になるのは、来季はまた別の話になるからだ。来季の「リバプール」は、どこなのか。旅の目的はそこになる。理由は簡単で、僕が日本人であるからに他ならない。一介のフリーランスだと言うこともある。知恵を絞れば弱者だって……。チャンピオンズリーグ決勝は、僕にまた良からぬ勇気を与えてくれたように思う。今後の人生に、さらなるやる気が芽生えたことは間違いない。いま、身体中が「へへへ」の気分でいっぱいだ。

リバプール
ACミラン
欧州チャンピオンズリーグ

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