欧州CL通信BACK NUMBER
弱者チェルシー、格下アーセナルにも勝機あり。 <前編>
text by
田邊雅之Masayuki Tanabe
photograph byTakuya Sugiyama
posted2009/04/28 11:02
欧州現地時間28日から始まるCL準決勝。今年はバルセロナ対チェルシー、マンU対アーセナルの対戦カードとなった。順当にいけばバルセロナとマンUが勝ち名乗りをあげるだろうが、それではあまりにも面白くない。何が起きるのかわからないというのが、サッカーという競技の一番の魅力でもあるからだ。そこで今回は、世間一般に分が悪いとされているチェルシーやアーセナルが、番狂わせを起こすための方法を考えてみたいと思う。
チェルシーはイニエスタ潰しに専念するべし
まずはバルセロナ×チェルシー戦。チェルシーにかかったプレッシャーの大きさは、リバプール戦の比ではないはずだ。今シーズンのバルサは、リーガ最強どころかバルサ史上最強といわれるような強さを誇っている。公平に見て、4強の中では最も優勝に近い位置にいるのではないだろうか。
しかし慌ててはいけない。バルサは12人でサッカーをしているわけではないし(しばしばそう見える時もあるが)、グラウンダーのボールをオーバーヘッドキックするような、常識を超えたプレーをしているわけでもないからだ(メッシのドリブルは常識を超えているが)。
アンリ、メッシ、エトーというFWの3枚看板の得点能力はすさまじいが、よくよく眼を凝らしてみれば、フィニッシュに至るまでの形は、スルーパス、ワンツー、ドリブル、浮き玉やグラウンダーのパスからの折り返し、といった極めてベーシックなパターンから生まれているにすぎないことがわかる。
とはいえ、ボックスの周辺でこのような場面が登場すれば、次の瞬間、ボールがネットに飛び込んでいる可能性は限りなく高まってしまう。極論すれば、彼らが決定的な動きに移った時点で「ジ・エンド」なのである。だとするならば、直前のシーンにまで場面を巻き戻して、そこから先にストーリーが展開しないようにすればいい。そこでポイントになるのがイニエスタ対策だ。
彼の働きがなければ、3枚看板もこれほど得点を量産できなかったのではないかとさえ思える。またイニエスタは、FWとのワンツーで自ら切り込んでいくようなプレーも平気でこなしてみせる。しかもポジション取りが抜群にいい。常に敵のMFとDFのラインの中間、敵の守備陣にとって一番マークの受け渡しがしにくい場所でボールを受けとり、そこからパスを出し、ゴールを狙ってくるのだ。
したがってチェルシーとしては、リバプール戦でエシアンがジェラードを封殺したように、エシアンやミケル、あるいはバラックあたりが徹底的にマンマークでもって密着し、イニエスタ→FWというパスコースを断ちつつ、イニエスタ自身がゴールに絡むのを防がなければならない。
バルセロナから得点することの難しさ
しかしある意味では、バルセロナに点を取られないようにすることよりも、バルセロナから点を取ることの方が大変かもしれない。今年のバルサは攻撃力ばかりが目につくが、それ以上に驚異的なのは守備の堅さだ。ボールを取られれば、一人がすばやくマンマークに行ったうえで、相手がタッチライン際にいる場合にはダブルチームで、ピッチ中央にいる場合は、放射状に取り囲んでパスコースを消す。これでは普通にパスをつないで攻撃を組み立てようとすること自体に無理がある。パスサッカーの本家本元であるが故に、バルセロナの選手は対処法も熟知している。
チェルシーとしては、違うアプローチを採らなければならない。その一つはCFへの楔のパスを活用する方法だ。バルセロナのDF陣は非常に優秀だが、決して上背のある選手が揃っているわけではない。ドログバのように頑健かつ運動能力の高い選手にロングボールが渡れば、当然二人でチェックしなければならなくなる。したがってドログバが2人のCBを巻き込む形でスペースをあけ、そこにランパードのような選手が2列目から飛び出してくるパターンが有効になってくる。
次に考えられるのはDFの裏、特にSBとタッチラインの隙間に抜けるパスを出してサイドから崩す方法と、ボックスを斜めに横切る浮き玉のショートクロスを活用する方法だ。前者はバルセロナもよく使う方法だが、バルセロナが使っているということ自体、攻撃の一つの方法として有効な証拠だといえる。こういった攻撃をしかけていく上で、MF(ロングボールはDFから出る場合もあるだろうが)からの球出しの早さがカギを握ることは言うまでもない。
いいサッカーをするのではなく、相手のアドバンテージを消す。そして自分たちの持ち味(スピードとフィジカル)をいかしてチャンスを作る。チェルシーは典型的な弱者の戦い方に徹しなければならない。えげつないかもしれないが、今さらヒール扱いされるのをためらうほど、ヒディンクとチェルシーの選手はナイーブではないだろう。
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