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ジャンプ日本代表に謎の空白世代?
経済不況がスポーツ界に残した爪痕。 

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生島淳

生島淳Jun Ikushima

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photograph byREUTERS/AFLO

posted2010/01/20 10:30

ジャンプ日本代表に謎の空白世代?経済不況がスポーツ界に残した爪痕。<Number Web> photograph by REUTERS/AFLO

1月16日に札幌・大倉山ジャンプ競技場で開かれたノルディックスキー・ジャンプのW杯第13戦。バンクーバー五輪日本代表の伊東大貴(雪印)が3位に入賞し、今季2度目となる通算4度目の表彰台に上った

拓銀の経営破綻と雪印の不祥事が空洞化を招いた。

 事態が急変したのは1997年だった。北海道経済の大動脈だった拓銀が経営破綻する。連鎖倒産が起き、ウィンタースポーツを支援していた企業が続々と撤退していった。

 さらに2000年、2002年に雪印で不祥事が起き、ジャンプ選手の採用が一時、ストップしてしまった。

 つまり、現在の日本ジャンプ陣の中核を担うべき20代後半の選手たちは、競技を続けたくとも、就職先がなかったのである。

 だから、決して才能のある選手がいなかったのではない。

 経済状況の悪化が、空洞化を招いてしまったのだ。

 下手をすれば、そのまま日本のジャンプは衰退の一途をたどってもおかしくはなかった。しかし雪印が踏ん張った。新たに採用を開始し、今回は伊東、栃本とふたりの中心選手を代表に送り込んだ。

 ただ、忘れてならないのは、雪印はジャンプを供していく過程でアイスホッケー部を解散するなど、選択と集中を進めてきたことである。厳しい環境のなかで、なんとかジャンプへの支援を続けてきた――というわけである。もし、撤退していたら目も当てられなかっただろう。

より厳しさを増すアマチュア・スポーツの経済事情。

 一昨年のリーマン・ショックから、日本の企業がスポーツから撤退するニュースが相次いだが、なぜこれだけ話題になったかというと、戦後の日本のスポーツ振興、強化は主に一般企業が中心になって進めてきたからだ。

 そして昨年、民主党が「事業仕分け」を進める中でスポーツの強化に関してもメスを入れようとしたが、もともと日本の政府がスポーツにかけるお金は、ドイツやイギリスと比べたら比較にならないほど少ない。国があまり手出ししてこなかった部分だからだ。

 それでもこの10年間、日本のウィンタースポーツ界は経済的には恵まれていた。

 実は長野五輪で、40億円もの黒字が出ていて、この時のお金が「長野オリンピック記念基金」として、長野県や様々な競技団体に12年間にわたって助成されてきたのである。

 私がその事実を知ったのは、カーリングの軽井沢国際を取材した時。大会がずっと開催を続けてこられたのは基金の下支えがあったからという話だった。

 この基金も今年度でなくなってしまう。そうなれば大会運営にも支障をきたす競技団体も出てくる可能性がある。

【次ページ】 競技存続のためには絶対にメダルが必要だが……。

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