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4回転なき金メダルは妥当か?
論争を呼ぶプルシェンコの“異議”。
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byREUTERS/AFLO
posted2010/02/20 21:00
2月16、18日に行なわれたフィギュアスケート男子で、高橋大輔が銅メダルを獲得した。日本男子史上初であり、まぎれもなく快挙である。
それとは別に、会場で話題となったことがある。銀メダルに終わったプルシェンコが、今回の結果について、異議申し立てと受け取ってよい発言をしたのだ。
「採点方法を変えるべきではないかと思います。4回転ジャンプは4回転ジャンプです。オリンピックの優勝者が4回転をやらないなんて、ちょっと分からないです」
優勝したのはライサチェクだが、ライサチェクは4回転ジャンプを跳ばず、3回転以下のジャンプのみに抑え、確実に演技することで金メダルを獲得した。
一方のプルシェンコは、4回転ジャンプを他のジャンプと組み合わせて連続ジャンプにするなど、高難度のジャンプを取り入れていたものの精度に劣り、銀メダルに終わったのだ。
記者の間でも、意見が飛び交った。
「プルシェンコの言い分はもっともだ」「ジャンプばかりがフィギュアスケートではない」など、異なる見方が披露された。
対人競技ではなく、単純に記録で競い合うのでもない、採点競技だからこそ起こった議論だと言える。
ソルトレイク五輪モーグル男子でも「先進性」を巡る対立が。
議論を聞いていて思い出したのは、2002年、ソルトレイクシティ五輪だ。このとき、モーグル男子で同じように論争が沸き起こった。金メダルを獲得したのは現在、日本モーグルチームのチーフコーチを務めるヤンネ・ラハテラだった。ラハテラは、世界最高のターン技術ならではのスピードとずば抜けた滑りを見せて高得点をたたき出して優勝した。
このとき、当時、誰も取り組んでいなかった3Dエアをオリンピックで初めて披露した選手がいた。アメリカのジョニー・モズレーである。今まで見たこともないエアに、観客は大歓声と拍手を送ったが、モズレーは入賞するにとどまった。すると、アメリカのメディアが、「先進性、創造性を評価しないのか」と国際スキー連盟の関係者に詰め寄ったのだ。
プルシェンコの発言が起こした議論は、それと似たものを感じさせた。
モーグルもフィギュアスケートも、採点競技である。人の目によるジャッジが入る競技であり、しかも、見るべき要素がいくつにも分かれる。例えばモーグルならターンとエア、フィギュアスケートなら技術点と表現点がある以上、結果への批判や不満が出るのは宿命である。