フィギュアスケート、氷上の華BACK NUMBER
浅田もヨナも順調な仕上がり。
カナダ代表の母急死が五輪を揺らす。
text by
田村明子Akiko Tamura
photograph byGetty Images
posted2010/02/23 19:20
2月22日、女子SPを翌日に控えて、会場のパシフィック・コロシウムで女子の公式練習が行われた。
浅田真央は上品な紅色の新しい衣装でSPのランスルーを行った。「仮面舞踏会」のメロディに合わせて3アクセル+2トウループをきれいに着氷。順調に調整ができている様子を見せた。鈴木明子はやはりSPのタンゴのメロディで、得意のステップシークエンスなど全体をさらった。同じ練習グループだったキム・ヨナはフリーの曲、ガーシュウィンのメロディにのって2アクセル+3トウループなど、安定したジャンプをアピール。安藤美姫はSPの「レクイエム」の全体の調整をした後、3回転の連続ジャンプなどにも挑戦した。
安藤と同じ練習グループだったカナダ代表のジョアニー・ロシェットは、普段とあまり変わりない様子で練習を終えたことが、いっそう痛々しく感じられた。というのも、この前日に彼女の母親が急死するという悲劇が起きたのである。
ロシェットの悲劇を見守る雰囲気が五輪会場に漂う。
テレーズ・ロシェットさんは夫のノルマンドさんと、20日土曜日にモントリオールからバンクーバーに娘の応援のため到着したばかりだった。21日早朝に心臓発作で倒れ、運び込まれた病院で亡くなったのだという。まだ55歳だった彼女が、以前から心臓の疾患を抱えていたのかどうかは不明。カナダチーム五輪代表団長のナタリー・ランバートは「ジョアニーが棄権したいと望むのなら、本人の意思を尊重する」とのコメントを発表したが、ロシェットは予定通り五輪に出場すると表明した。
ロシェットは当日の公式練習で少し涙ぐんでいるように見えたが、気丈にも涙を拭いて氷の上に登場。翌日も予定されていた公式練習をこなした。
「ジョアニーは今、自動操縦モードに入って集中しているのだと思う。きっとここできちんとやることをやり終えてから、どっと気が抜けて倒れてしまうのではないか」とカナダ連盟の広報担当、バーブ・マクドナルドは沈んだ表情で語った。
これまでにも大きな大会の前に事件はあったが……。
それにしても大きな大会では不思議なことに、普段では考えられない悲劇が起きがちだ。
フィギュアスケートだけで見ても、1994年リレハンメル五輪直前に、米国代表アイスダンサーエリザベス・パンサランの父が、知能発達障害を抱えた息子に殺されるという痛ましい事件があった。1997年ローザンヌ世界選手権では、開催中にニコル・ボベックのコーチだったカルロ・ファッシが心臓発作で急死。ボベックは最後まで演技したが力を出し切れず、13位に終わった。