MLB Column from WestBACK NUMBER
ポスト岡島世代、小林雅が成功した理由
text by
菊地慶剛Yoshitaka Kikuchi
photograph byAFLO
posted2008/07/02 00:00
まずは本題に入る前に、少々時間を遡ってシーズン開幕前のストーブ・リーグについて考えてみたい。
あくまで私感であるのだが、この冬のストーブ・リーグは“第3次”日本人選手ブームが起きていたと思う。第1次は、野茂投手がドジャースでセンセーショナルな旋風を巻き起こした1995年以降の「ポスト・野茂」探し。そして第2次は、イチロー選手がメジャー1年目でタイトルを総なめした2001年以降の「ポスト・イチロー」探しだった。そして今回のブームは、昨年レッドソックスを世界王者に導いた原動力となった岡島投手が火付け役となり、各チームが「ポスト・岡島」探しに躍起になっていたと感じている。
今では投手、野手を問わずに、日本のスター選手たちがメジャーでも十分に活躍できるという概念がほぼ確立され、松坂投手や福留選手らがメジャー主力級の長期大型契約を勝ち取っている一方で、メジャーではほぼ無名の存在でありながら文句なしの成績を残した岡島投手の登場で、資金に余裕のない球団でもスカウト活動次第では質の高い日本人選手を獲得できるという新たなトレンドが生まれたのは間違いない。そしてその「ポスト岡島」候補としてメジャーに移籍したのが、インディアンズの小林雅英投手、ロイヤルズの藪田安彦投手、レンジャーズの福盛和男投手──の3人だった。
しかし福盛投手はシーズン開幕早々にマイナーに降格し、藪田投手も6月25日にマイナー行きを通告されてしまうなど、2人に関してはここまでチームが期待していた活躍ができていない。野茂投手以来長年に渡り日本人投手の取材を経験し、本人の投球さえできれば日本人投手は誰でもメジャーで通用すると信じている自分としては、彼らが苦悩している原因が彼らの技術的な部分ではなく、精神的な部分にあるように思えて仕方がない。その辺りを含め、3人の中で唯一活躍を続けている小林投手に尋ねてみた。そして彼が真っ先に指し示してくれたのが、2つのキーワードだった。
「あきらめと切り替えですね」
さらに小林投手の説明を聞いているうちに、自分の考えが決して的外れでなかったことを感じ取ることができた。以下、彼の説明を抜粋してみよう。
「自分のパフォーマンスを評価してくれるのは回りの人。自分で評価できるのはシーズンが終わって成績が出てからのことですね。シーズン中は昨日のことも無しなんです。気持ちもそうだし、身体もそうだし、全部の部分を今日の試合に集中していかないと通用しない世界ですから。日本の時からそうなんですが、毎日の切り替えと準備が必要だと思っています」
「もちろん凄い打者がたくさんいますし、時には手がつけられないと感じることもあります。でもその一方で、自分も対等に同じフィールドに立っているんだと思うようにしています。ここは自分が入りたいからといって入れる世界じゃないですし、回りの人に認められたからここにいるんです。気後れしたらどうしようもないところですから」
「僕よりも(ロッテで同僚だった)藪(田)ちゃんの方が神経質というか繊細な部分が多いと思う。僕は何も考えてないといえば何も考えていないし、『だって仕様がないだろ』って割り切ってしまう。(メジャーに来て)ボールがあかん、マウンドがあかん、と言っても、僕らはメジャーに来る初めての選手ではないし、そんな情報は腐るほど入っている。いちいち気にしていても仕様がないし、これで投げるしかない。自分で選んだ道なんでダメだったらダメしかないんです」
「気持ちというより頭の部分だと思います。何かに悩んだ時点で、その選手はパニックになっている証拠なんです。僕としては百も承知で来ているんですから、(環境の違いに)悩むことは何の言い訳にもならないと思う。だから(その状況を受け入れる)あきらめと切り替えなんだと思う。あとのパフォーマンスに関しては自分のできることしかできないし、新しいことをやろうとしても無理ですから」
もちろん野球選手だって十人十色であり、その個性や性格も自ずと違ってくる。だが時としていかなる選手にとっても、かつて野茂投手にも感じたことがある小林投手のような“図太さ”というか“開き直り”が必要なのではないだろうか。
結果だけですべてが評価される世界で、結果を残せないことほど辛いことはない。それでも結局は自分自身を信じて前に進むしかないのだ。小林投手の言葉を借りるまでもなく、メジャーの舞台に立つということ自体が選ばれた人物だという証なのだから……。福盛、藪田両投手の1日も早いメジャー復帰を祈るばかりだ。