Number ExBACK NUMBER

清宮マジック、ふたたび。 

text by

藤島大

藤島大Dai Fujishima

PROFILE

posted2007/01/25 00:00

 さも当然のように思えてくる。サントリーサンゴリアスは、すでにしてトップリーグの主役を張っている。

 昨季は6位に沈んだ。早稲田大学を率いて文句なしの実績を挙げた清宮克幸監督を迎えると、大胆な新人起用とスクラムなどの強化推進でいきなり結果を出した。リーグ開幕節では神戸製鋼に快勝(31-10)。第2節、ヤマハ発動機に21-22の敗北を喫して動揺なくもないはずなのに「NECESSARY LOSS(この負けは良薬なり)」なる言葉を駆使して立て直す。以後、快進撃を続けた。清宮イズムの成果は明らかだ。では、その正体は。渦中の選手たちに語ってもらった。

 誰が呼んだか「清宮チルドレン」。しかし、子供にしては、あまりにも落ち着きがある。

 佐々木隆道。昨年度の早稲田主将、サントリー入りするや、たちまちナンバー8のポジションをつかんだ。強力外国人の定位置である背番号8を新人で譲らないだけでも快挙なのに、もはやリーダーの貫禄も漂う。清宮監督のもと、大学1年から通算5シーズンを送り、イズムを最もよく知る男でもある。

 早稲田時代と監督の方法は変化しましたか。

 「いえ、そんなに変わってはいません。基本的には激しいスタイル。日本のラグビーを引っ張っていくのだと大々的に宣言してますし、そういう考え方は早稲田でも同じでしたから。まあ、選手との接し方は多少は違いますが。よく笑ってますよね。監督と学生という壁よりも、同じ社会人、ひとりのプレーヤーと監督ということで楽なのでは」

 成功体験を共有した立場として、サントリーも勝つだろうと思えましたか。

 「そうですね。あとは選手だろうと。いかに、いい戦術、いいスローガンがあっても、それを実現させるためのいい練習をしなくては勝てない。いい武器が、ただの武器になってしまう。あとは僕らしだい」

 その僕ら、うまくいってますか。

 「人間の集団ですから波はありますけど、うまくいってます」

 ずばり、サントリーの多くの選手にとっては、清宮監督の指導は、これまで受けたのとは異なるレベルだった?― 

 「そうじゃないですか。考えるラグビーに慣れてなかったのかもしれません。藤原(丈嗣)なんて凄く吸収してると思う」

 藤原丈嗣、今季最大級のセンセーションである。粗削りな大型WTBとして日本大学から入ったルーキーは、まさに真綿に水の染み入るように学び、あっという間に主力のひとりとなった。やはり新人で、法政大学では潜在力を持て余す感もあった篠塚公史も長身フランカーとして不動の存在に化けた。

 考える癖は浸透しつつある?

 「清宮さんが新しいことを考える。それと自分たちの知っていることとのギャップを埋める時間はかかりますけど、みんな意図はわかる。あとはスピードの問題です」

 あらためて清宮イズムとは。

 「人間の意識を変えるのがうまい。こだわるレベルが高い。僕らの次の課題としては受け身のままで終わらないこと」

 チルドレンでないチルドレンのあと、サントリー、いや日本代表の誇る「シニア」の声を聞いた。小野澤宏時。WTBで代表キャップは「31」。前回ワールドカップでは、柔軟にして強靭なランが、現地メディアより「ラバーマン(ゴム人間)」と称された。

 「清宮さん、求めることは欲張りなんですけど、言葉は明確なんです。ラグビーのやり方はたくさんある。だからこそ選手にしてみれば、これが正しいと、はっきり伝えてもらいたい。そこの部分を、なんとなくでなく、言葉、映像、活字で出力してくれる」

 昨年4月中旬の最初のミーティングで、新監督は言った。「組織のために個人があるのではなく、個人のために組織はある」。昨季まで3シーズン、システムに頼り、個の迫力と鍛錬を欠いた。小野澤は、その場で「なんかある」と振られると「なんでもいいから、とことんやってください」と答えている。

 「やり過ぎだ。そんな声はまったくなかった。そのうち結果が出てきて、また、そこで立ち止まるのではなく試合ごとの修正点を洗い出していく。週の頭に前の試合でできなかったノームを確認、反復する」

 サントリーには「ノーム」と呼ばれる考え方がある。規準。規範。ノルマの語源である。早稲田では「セオリー」という言葉をあてはめていた。パターンではない。あるプレーを選び、その結果として何かが起こる。そこでの「規準」については厳しく問う。こうなったらパス。こうなら、こっちを攻める。練習で間違った選択をすると、すぐに止めて「なぜダメか」をしつこく仕込んでいく。やがて規準はチームに共有される。試合がうまく運ばなくともノームへ帰れば立て直せる。

 「反省のポイントがいつもフォーカスされている。チームの向かう矢印を信じさせてくれる。信じさせる雰囲気を持っている人はいる。口だけの人もたくさんいます。清宮さんには、雰囲気だけでなく技術の裏づけがある」

 チームのスローガンは「アライブ」。さまざまな解釈の成り立つ言葉だが、小野澤によれば「要は、頑張れですよ。清宮さんにアライブしてないって言われたら死んでるということ。それで終わり。逃げ場ないんです」。

 リーグのトヨタ戦、必死の抵抗を受けて終盤まで競ったが「今回は(点を)取られないためにどうしようと思えた。これまでは取られたらどうしようと思っていたんです」。

(以下、Number670号へ)

ラグビーの前後の記事

ページトップ