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“鬼の小川”率いる負けないチーム。
首位ヤクルトのスマート戦術とは?
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byHideki Sugiyama
posted2011/05/18 12:10
昨年は、シーズン前半の絶不調時に高田繁監督が突然の休養に入り、急遽監督代行となった小川淳司監督。就任直後からの驚異的な復活劇は“メークミルミル”とも呼ばれ、ファンを興奮させた
昨年のちょうど今頃、借金19を抱えていたチームとは思えないほど今年のヤクルトは強い。
それは数字にも表れている(すべて5月17日現在)。
チームの打率や本塁打はリーグ・トップ、防御率でもリーグ2位。打線は打率、本塁打と二冠のバレンティンをはじめ、3割には青木宣親、畠山和洋、宮本慎也、川端慎吾が名を連ね、投手陣もエースの石川雅規を筆頭に館山昌平、由規と防御率1点台が実に3人もいる。
ゲームでも投打のバランスががっちりと噛み合い、開幕から両リーグ最多である7試合のシャットアウトを演じるなど非の打ちどころがない。
現在のヤクルトはスマートすぎるほどスマートに勝っていると言えなくもないが、さらに付け加えれば、勝てるゲームは絶対に落とさないからこそ強いのだ。
それを証明してみせたのが、15日の横浜戦だった。
1つのミスも見逃さない、鬼の小川采配。
序盤に3点を挙げ主導権を握り、4回に先発の増渕竜義が相手打線に捕まり同点とされるが、6回には宮本のタイムリーなどで2点を勝ち越し。7回からは押本健彦、バーネット、林昌勇の盤石リレーで逃げ切った。
そう簡単な解説で済ませることもできるが、このゲームに関してはそれではもったいない。
なぜなら、指揮官の小川淳司の采配の妙とチームの勝利への執着心が顕著に現れていたからだ。
ハイライトを挙げるとすれば、それは2点を勝ち越した6回の攻撃だ。
この回、先頭の4番・畠山が安打で出塁するとベンチが動く。ゲーム中盤だというのに、早くも福地寿樹を代走に送ったのだ。
伏線は4回にあった。
2死一、三塁で横浜・藤田一也の左中間へのフライをレフトの畠山が追いつけず二塁打に。「一生懸命やったけど捕れなかっただけでミスじゃない」と本人も言葉に力を込めるように、決してお粗末な守備ではなかったが、同点とされた事実を踏まえての交代であることは間違いなかった。