野球クロスロードBACK NUMBER
“鬼の小川”率いる負けないチーム。
首位ヤクルトのスマート戦術とは?
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byHideki Sugiyama
posted2011/05/18 12:10
昨年は、シーズン前半の絶不調時に高田繁監督が突然の休養に入り、急遽監督代行となった小川淳司監督。就任直後からの驚異的な復活劇は“メークミルミル”とも呼ばれ、ファンを興奮させた
4番打者であろうが勝つためには躊躇せず交代させる。
指揮官は畠山の守備について、「あれはエラーではないけど、(不慣れなレフトに)畠山を就かせた僕のせい」と前置きをし、福地起用の理由を述べた。
「(3回からマウンドに上がった横浜の)阿斗里に完全に抑えられていたけど、打線もひと回りしたから目も慣れてくるだろう、と。ノーアウトのランナーが出たとき、100%ではないけど『この回に点を取れば勝てる』と思ったから勝負に出た」
采配は見事に的中する。
5番・バレンティンのセンター前で福地が一気に三塁を陥れ一、三塁とチャンスを広げた。福地は代走での起用についてこのように述べていた。
「早い段階から出されることを聞かされていたんで準備はしていました。バッターは外国人選手なので、かっ飛ばしてくれれば走る、という思いでいました」
ベンチが冷静に戦局を見定めているかと思えば、選手も状況に応じて最高のパフォーマンスを出す術を熟知している。
ベンチの極めて合理的な采配に、選手たちも追随する。
続いてレフト前にタイムリーを放ったチームリーダーの宮本にも当然、その意識は根付いている。
「畠山に代走を出しましたからね、『勝負を賭けているな』と思いました。何とか1点欲しい場面だったので、ピッチャーゴロかサードゴロでなければゲッツーでもいい、と。セカンドとショートが下がっていたので、そこを狙って打席に立ちました」
この直後に阿斗里をKO。さらに川端の犠牲フライで1点を追加し試合を決めた。
勝利のきっかけを作りながら交代させられた畠山は、「そりゃあ、やっぱり悔しいですよ」と苦笑いしていたが、小川監督はどこまでも冷静だった。
「代えたから点が入ったわけでしょ。畠山ならバレンティンの打球でサードまで行けていないですからね。でも、ヒットを打った打席は非常に集中力を感じました。最近ちょっと調子が悪かったけど、今後に向けていいきっかけになってくれるんじゃないかな。これからよくなるでしょう」