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王貞治「監督日記」 勝算われにあり! <再録連載最終回> 

text by

瀧 安治

瀧 安治Yasuji Taki

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photograph byKazuhito Yamada

posted2009/05/26 11:00

王貞治「監督日記」 勝算われにあり! <再録連載最終回><Number Web> photograph by Kazuhito Yamada

再録連載 最終回(2/2)

●昭和59年4月15日(日) 対阪神6回戦(1-6)

娘の声を聞きたい。

 阪神の連中、みんなよく打ってくれるぜ。こちらが主導権を握れないまま試合は終ってしまう。今日はさすがに俺もベンチの奥でガァーンとカベをケ飛ばしたよ。帽子をバチッて叩く回数が多くなってきた。まあ選手に見える所ではやらないが。とにかくうちは守りの時間ばっかり長くて、後に残るのは疲れだけである。

 もう野球の中に入ってしまってものを考えるのはよそう。開き直るしかない。上手くいくのも作戦だし、悪くいくのも作戦だし、勝とうと思う気持が強ければ強いほど裏目に出たりする。まあ、そのうちに何をやっても上手くいく日があるかもしれない。その日がまもなくやってくるだろう。

 家では今頃みんな何をしてるかな。娘達も大分しっかりしてきたし、頼もしい。もう東京も桜が咲いただろう。明日あたり電話してみようかな。でも「また負けたのね」なんて言われそうだからやめておこう。しかし、娘の声をちょっと聞きたいな。

 明日からは九州シリーズが始まる。気分転換には最高だろう。いい土産を持って東京に帰るとするか。必ず二つは勝てる。

○昭和59年4月19日(木)対ヤクルト3回戦(11-3)

ゴールデン・ウィーク後に爆発する。

 いよいよ俺の。“カン”もさえてきた。自分自身に言い聞かせる意味もあったが、必ず九州シリーズは勝ち越せる、と暗示をかけてみた。第1戦(ヤクルト)でやられた時(3-4)はゾオーとしたが、試合内容にいままで見られなかった粘りが出てきた。知らない間に、一つ一つのプレーに対して不安な目で見てきていたように思う。

 それがこの九州シリーズでは、選手に期待をもって、いい結果を予測しながら見られるようになってきた。あの第1戦の粘りが次の2試合の完勝につながったと思う。原にも待望のホームランが出たし、ようやく打線に活気が出てきた。この活気、思い切りのよさが出てきさえすれば、どこからでも点がとれる。

 これで2人の外国人が戦列に復帰すれば大爆発だ。3割バッターが3打数ノーヒットなら、次の4打席目はヒットを打つ確率はかなり高い。うちがトータルで70から75勝できる力を持っているとすれば、これだけ負け込んだ後は、どんどん勝ち続けるはずである。

 このメンバーで巨人軍が負け続けるはずがない。確率的にいってもそういうことになる。これから勝ち越していかなければ、プロ野球50年のデータがウソを言ってることになってしまう。俺は腕組みして黙っていればいい。そうすれば勝てるはずだ。後楽園のゴールデン・ウィークが楽しみになってきた、俺はあまりスタートが得意な方じゃないんだ。だんだんエンジンが温まってきて、一度走り出したら一気にパワーが爆発する。それが得意なのだ。

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