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新人王候補ウィリッツを導いたベテランの遺伝子。
text by

津川晋一Shinichi Tsugawa
photograph byYukihito Taguchi
posted2007/09/20 00:00

Show the ropes.
この慣用句は「コツを教える」という意味。帆船の帆を操る技術は難しく、古参が新人水兵にロープの扱い方を手取り足取り伝授することに由来するという。
まさにそのようにして才能を開花させたのが、レジー・ウィリッツ(エンゼルス)だ。メジャーデビューの昨年は、出番が少なくベンチを温める日々。そんなとき、同じ境遇のあるベテランとの邂逅が、その後の行方を変えたのだという。
その男の名はティム・サーモン。新人王に輝いた'93年以降、『ミスター』『キング』の愛称で親しまれ、生え抜きとしてエンゼルスを支えた。だが度重なる故障から、昨年を最後に引退を決めていた。
「僕はティムと試合中にたっぷり会話をすることができた。何をすべきで、何をすべきでないか、メジャーリーグの心得を全て教えてくれたのが彼だったんだ」
サーモンは精神面と技術面の準備の大切さから、スランプ脱出法やチームが選手に何を求めているかに至るまでマンツーマンで指導した。そうして今年、ウィリッツは不動のリードオフに成長したのだ。
そのウリは、リーグで11位、ルーキーでは2位を誇る出塁率だ。俊足巧打で3割に乗ろうかという打率をも意に介さない。「僕の役割は、どういう形であれ出塁することに尽きる。だから三振数よりも四球数が上回ることがシーズンの目標なんだ」。昨季は規定打席に達しなかったもののクリア。今季も62四球、 76三振(9月4日現在)と、いいペースで来ている。「ウチのラインナップにはアンダーソンやゲレーロら、素晴らしい中軸打者がいる。僕は出塁することに集中すればいい。後は彼らが還してくれるんだから」
ウィリッツは松坂大輔、ダスティン・ペドロイア(いずれもRソックス)らと並び今年のア・リーグ新人王争いに名を連ねるが「候補に挙げられるのは名誉なことだけど、僕は意識していない。とにかくワールドシリーズで勝つことだけにフォーカスしているんだ」と真顔で言う。球団創設42年目の'02年、初のワールドシリーズ制覇に貢献したサーモンの遺伝子は、確かに受け継がれたようだ。
"Tim showed me the ropes"
新人水兵が見事にロープを捌く航海の先には、“地区優勝”のゴールが見えつつある。
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